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「オナニー」「マスターベーション」「自慰」がすき


わたしはオナニー・マスターベーション・自慰がすきだ。

「オナニー=マスターベーション=自慰」という行為じたい(シニフィエ)のことを言っているのではない。・・・いや、行為じたいもすきだけれど、それはわざわざ語ることではないし、少なくとも今回は語らない。

ここで言っているのは「オナニー」や「マスターベーション」や「自慰」という言葉じたい(シニフィアン)のことである。その字面、言葉の響き、そうした総体がなんだかとても良いなぁと昔から思っていた。それをもう少し言語化してみようと思う。



・オナニー

まずはオナニーである。(まさか「まずはオナニーである」から始まる文章を一生のうちに書くことになるとは思っていなかった。実績解除)

・・・

「オナニー」って言葉の響き、めちゃくちゃエッチじゃない?????

大前提として、オナニーという行為じたいが、社会性を発達させた人類にとって──少なくともこの単語の意味を理解できる人間にとって──人前ではできない、恥ずべき、いやらしいこととして認識されている。だが、内容だけでなく、その恥ずかしい行為を指す単語じたいもいやらしいって最強でしょ。隙がない。勝てない。参りました。

もちろん、言葉の響きがみだらに感じるのは、その指示内容の影響であることは否定できない。シニフィエとシニフィアンは完全に独立しているのではなく、相互に影響しあい参照しあっている。(記号論エアプなのでしらんけど)

だが、そうした内容の影響を認めつつも、それでもわたしは「オナニー」というカタカナ4文字からビンビンに発されている "いやらしいオーラ" とでも呼ぶべきものを信じたい。信じている。信じさせてくれ。

まず「オ」という、50音スターターパックの最初の5文字のひとつ、初期メンであり、かぎりなくフラット・無味無臭な印象のある文字から始まっていることに驚きを隠せない。「おおきな」とか「おいしい」とか、ふつう「お」は伸びやかで健全な全年齢対象の単語を連想させる。あるいは「お薬」や「お客様」など、語頭につけただけでその単語を上品に仕立て上げられる魔法の1音でもある。

そんなCERO Aレーティング間違いなしの文字から「オナニー」なんて単語(コンボ)が繰り出されるなど、いったい誰が想像しただろうか。シンプルイズベスト。ジャブだけでラスボスを倒すかのような、最初に覚えた技が結局いちばん強いというテーゼを体現するかのような、そんな激アツで崇高な事実がここにある。

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そして「オ」の次に来る単語が「ナ」である。これも天才と言わざるをえない。「おな」とくれば「同じ」「お腹」などの健全な√もあるが、こうした表舞台の裏を縫うようにして「おんな」という性に関する単語も想起させる。

そもそも「な行」は、「オ」でいちど浮いた舌をNの音とともに閉じる展開を要請する。シャットアウトというダイナミズムとともに、全年齢からR-18の息吹が吹き込んでくる。1音目で健全だと安心したわれわれを笑い飛ばすかのような地獄からの息吹が


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そして次の3音目「ニ」を伸ばして「ニー」で締める。優勝。なんと艶やかなことか。「ナ」からN音を引き継いで淫靡さをさらに深めるとともに、どこか滑稽さも感じる。この「淫靡かつ滑稽」な感じが「恥ずかしさ」へと至るのである。

滑稽さを感じる理由は、オ・ナ・ニの3音の母音がすべて異なることも関係しているように思える。この単語を発音するときには、必然的に口を、アゴを、舌を、せわしなく動かさなくてはならない。このジタバタ感が滑稽さを助長しているような気がする。

「ニー」で伸ばすのもほんとうにすごい。「ニー」で終わらせたインパクトの大きさは、「チクニー」や「サイニー」といったオナニーの派生形(〇〇ニー)が生まれていることからもわかる。「ニー」を付けるだけでえっちな響きになるのである。これを発明といわずなんと言おうか。ニーソックスがエロいのは、なにも物体それ自体がエロいためだけではないと思う。

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2人の女主人公を「ニーハ」「ニニー」と名付けた久保帯人は "わかっている"


こうして1音1音を振り返ったあとで、あらためて「オナニー」という字面をじっくり鑑賞し、自分で発音してみてほしい。

「ペ」とか「ズ」といった露骨に装飾的で過激な文字をいっさい使わずに、オナニーという行為のもつエロさと気恥ずかしさを見事に体現し、それを助長する言葉。

何度触れても惚れ惚れし、気恥ずかしくなってくるネーミングだ。オナニーが恥ずかしいのは「オナニー」という字面と響きのためでもあるのだ。


ちなみに「オナニー(onanie)」の語源は『旧約聖書』創世記第38章にでてくる男 "オナン"(Onan) であるらしい。現時点では聖書にそれほど興味はないが、すばらしいネーミングをしてくれたことに感謝している。




・マスターベーション

そして「マスターベーション」である。(まさか「そして「マスターベーション」である」なんて文を一生のうちにry)

「オナニー」からの落差・ギャップがすごい。聞いているだけでなんだか気恥ずかしくなってくる「オナニー」とは対照的に「マスターベーション」はかっこいい。圧倒的にかっこいい。

「オナニー」が素寒貧なら「マスターベーション」は "鎧" を着ている。それもそこらへんのちゃっちい鎧などではない。ロトの鎧のような、伝説の勇者かラスボスにしか着用を許されない装備だ。

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その圧倒的な威厳と風格におそれおののいてしまう。「趣味はマスターベーションです」と聞くと、なんだかひどく高踏的で教養のある人間に見えてくる。ほとんど「趣味は純文学です」と同じだ。

もちろん、そのかっこよさの一端は「マスター」という単語にある。主(あるじ)。老師。・・・格好よく、そして威厳がある。だがそれだけではない。後半の「ベーション」もすごい。「フォーメーション」とか「ソリューション」とか「キュレーション」とか「スタンディングオベーション」といった、意識が高そうな、子供の頃に憧れていた "大人" 感がある。

「マスター」と「ベーション」という、それ単体でさえカッコイイ単語同士をくっつけて、その意味内容からすれば大仰にすぎる長さによっていかめしさをさらに飛躍させたのが「マスターベーション」なのである。

字面はめちゃくちゃカッコイイのに示していることはオナニーと同じ、というギャップもたまらない。

語源はラテン語で「手」を意味する "manus" と「みだす」を意味する "turbare" を合成した "masturbare" だそうだ。masturbare. かっこよすぎる。最強の必殺技か、神話的なほどにでっかい熊を幻視する。

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・自慰

まず「じい」というたった2文字で構成された無駄のなさがいい。同じ「イ」の母音で統一されていて、アルファベット1文字の「G」も連想させることから、単なる2文字以上(以下)の簡潔さを感じる。

また「自らを慰める」という、上品を装っている婉曲的かつ的確としか言いようのない単語チョイスもすばらしい。「自」という小学2年生で習う簡単な漢字から「慰」という画数の多いいかめしい漢字へと展開する構成もメリハリが効いている。

完全に余談だが、わたしは幼い頃、「自慰」を「じしゅく」と読むのだと思っていた。「慰」の正しい音読みがわからなかったのだ。そのためか、2011年の震災のときにテレビで「自粛」という単語が発されるたびに、なんだかむずがゆい、ちょっと背徳的な気持ちになったものだ。もちろん自粛の意味はしっていた。だが「自慰」と「自粛」が同音異義語だと思っていたために、ニュースで女性アナウンサーが「じしゅく」と言うたびにこそばゆかった。

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「自慰」と「自粛」が異音異義語であると知った今もまだ、昔の名残りでちょっとこそばゆい。とくにまた最近は「自粛」という単語があちこちから聞こえるので……。わたしはこれから一生、世間がなにかの災禍で混乱するたびにちょっとえっちな気分にならざるをえない呪いを背負って生きていくのだろうか。

どうせなので、これを読んでいる皆さんにも呪いをかけておこう。


「国からの自粛要請」


「不要不急の外出は自粛してください」


STAY HOME


・・・どうだろうか。なんだかイケナイ気分になってはこないだろうか。




三位一体

さて、それぞれの単語の良さを語ってきたが、わたしが何よりすきなのは、これら3つの言葉がおなじひとつの行為を指し示す、という事実それじたいである。

すでに書いたように、「オナニー」には艷やかな滑稽さが、「マスターベーション」には威厳が、そして「自慰」には日本語的な馴染み深さと慎み深さがある。単語の響きも、長さも、そこから受ける印象も三者三様である。それでも、言語とは世界のなかの何らかの対象を表すものである以上、これらは「同じ」言葉なのだ。この事実が何よりいとおしい。

わたしがこれらの言葉のうち何を使おうかと考えるとき、まるで三面鏡の前に立ったときのような酩酊感を覚える。それぞれが「僕を使ってよ!」「いや俺だ」「いいえ私です」というように主張をしてくる。それでも、彼らは同一人物なのだ。わたしは妖精に惑わされ、いつまでたっても森から抜け出せない。

オナニー・マスターベーション・自慰という三位一体の構図──この神聖な美しさを心から愛する。わたしは三角関係モノのフィクションが好きだと語ったことがあるが、より普遍的で抽象的な次元で「3つ組」が好きなのかもしれない。

※三位一体といえばキリスト教用語で、キリスト教においてオナニー=マスターベーション=自慰行為がどのように扱われてきたのか、と考えるといくらでも深堀りできそうではあるが、ここでは行わない。


なお、もちろん自慰行為の同義語・類義語は「手淫」「センズリ」「自家発電」などなど他にもたくさんある。ただ、隠語でもスラングでもない、もっともメジャーな表現として、やはりこれら3つは別格だと思う。

「手淫」は「シュイン」という効果音っぽさがコミカルで好きだし、とうぜん隠語やスラングならではの魅力もあるだろう。もしあなたが特に好きな自慰行為の言い方があればぜひとも語ってほしい。


それでは。




・・・

・・・・・・昼間っからナニかいてるんだろう……




やっぱり似たようなことを書いているひとがいました

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