真昼の月
「やっと気づいてくれた?」
いたずらっぽい声がする。
お昼を食べに行く道すがら、もう6歳になる娘がずっしりと背中に重い。
「もう、最後まで気づいてくれないんじゃないかってハラハラしたよ。あんなにわかりやすいヒントをたくさん出しているのに」
口調とは裏腹に声は優しい。
「うん。鈍いんだよね。昔から。ぼーっとしてるし」
見上げると太陽と月が一緒に出ている。
もう、この何日も太陽と月が昼間の世界に共存しているみたいだ。
「応援してるって知らせたかったんだ」
まさか、そんなパワーないでしょ?
「ふふふ」
また楽しそうな笑い声がする。
あれ?Nちゃん?いつの間に仲良くなったの?
「知らなかったの?みんなこっちでは仲良しだよ。お母さんも一緒」
「私のことも書いて欲しかったな」
Nちゃんが少し口を尖らせたようにいう。でも声は笑っている。
「うん、途中まで描きかけたんだけど、次の絵本に書こうかなって思ってやめた。もう、ストーリーは決まってるんだ。実話は二度と書かないよ。辛いから」
「うん。どんな風に書いてくれるのか、楽しみにしてる」
「蝶のお話にするんだ。タイトルとストーリーが決まったから、絵の練習しないとね」
昔読んだ、森絵都さんの「カラフル」に出てくるお母さんばりに、私は何かに夢中になって、それで、ものにならないとわかると、すぐ諦めて放り出す癖があった。
「わかったでしょ?時間がいくらあっても足りないって。途中で投げ出したもの、全部やっていくんだよ」
またいたずらっぽい声がする。Nちゃんだ。
「いい?合言葉は逆。私は蝶。一人じゃないよ。いつも一緒にいるからね」
目の前を蝶がヒラヒラと飛んでいく。
見上げると、月が静かにひっそりと真昼の空に浮かんでいる。
やっぱりこうなるように進めてきたんだね。
過去と向き合う旅は終わろうとしている。
そして、また新しい旅が始まろうとしている。
