周到に準備する
かなり前に、「アテンションプリーズ」というドラマを見たことがあります。
上戸彩さんが主演で、新人CAの成長を描くストーリーでした。
ある時、上戸彩さん扮するCAが、TV局から取材を受けます。取材の一環で、航空機の整備現場も取材します。
取材終了後に、TVのディレクターがボールペンをなくしたことに気が付きま
す。
ディレクターは安物のボールペンなので、探す必要がないと、事の重大さに気がついていません。
ところが、整備現場ではそうはいきません。
紛失物が見つかるまで飛行機を飛ばすことができないのです。
そこから、整備士全員が必死になって、機材の隅からゴミ箱までくまなく一本のボールペンを探します。
数時間かけて、やっと一本のボールペンが見つかります。
これを見たときに、航空機の整備というのは、これほど徹底しているのかと驚いた記憶があります。
これだけ徹底した整備をしていれば、乗客にもシートベルトをしろ、離着時にトイレは使うななど、うるさく指示するのも仕方ないなと納得しました(もちろん、言い方はもっとずっと丁寧ですが…)。
最近、個人情報の漏えいなどの不祥事が新聞記事になることが増えています。
ちょっとした人為的なミスが、企業の屋台骨を揺るがす大問題に発展することも珍しくありません。
私のクライアントさんにSさんという方がいます。
Sさんは、日本航空の整備現場に24年間勤務していました。
Sさん曰く、こうした問題を抱える組織の共通点はここにあるのだそうです。
「社員のやる気だけでミスが防げると思っている」
言いかえれば、個人の意欲や気合いでエラーが防止できると考えてきたことが問題なのだそうです。
先程のエピソードは、ドラマの中の話ではありますが、制作にJALが全面協力していました。
おそらく、紛失物があったら、見つかるまで飛行機が飛べないのは、航空会社の社内規定だと思います。
「ボールペン一本ぐらい大丈夫だろう」ではないのです。
わずかな異常が、大事故につながる可能性があることを分かっているから、こういう規定を設けているのです。
『一件の大きな事故・災害の裏には、29件の軽微な事故・災害、そして300
件のヒヤリ・ハットがあるとされる。』(ハインリッヒの法則)ウィキペディアより
また、こうしたチェックポイントを個人のモティベーションや意識の高さに依存していません。
だから、飛行機の事故は少なくて済んでいるのです。
『アメリカの国家運輸安全委員会(NTSB) の行った調査によると、航空機に乗って死亡事故に遭遇する確率は0.0009%であるという。
アメリカ国内の航空会社だけを対象とした調査ではさらに低く0.000034%と
なる。
アメリカ国内において自動車に乗って死亡事故に遭遇する確率は0.03%なので、その33分の1以下の確率ということになる。
これは8200年間毎日無作為に選んだ航空機に乗って一度事故に遭うか遭わな
いかという確率である。』ウィキペディアより
私たち講師が、事故や災害の発生防止に直接関係することは少ないでしょう。
例えば、ちょっとした言葉遣いのミスが、受講者の事故につながるというケースはほとんどありません。
あるいは、テキストの誤字・脱字が、受講者の災害に結び付くことも稀です。
だからといって、手を抜いていいわけではありません。
あなたにとっては、100分の1回のセミナーであったとしても、受講者にとっ
ては一度きりの貴重な講義です。
周到に準備を重ねて、テキストを整備して、話す内容を吟味する必要があります。
整備士が、あの広い整備場からたった一本のボールペンを見つけ出す気構えで、整備というプロの仕事を全うする。
そんな気構えで、私たちも講義に臨もうではありませんか。
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