『前年同期比80%減』は,本当に8割悪くなったのか
「前年同期比80%減」と聞くと,業績が急激に悪化したように感じます.しかし,比較する前年が特別に高かった場合,前年比だけでは現在の水準をつかみにくくなることがあります.
今回,コメ卸会社を例にするのは,米の価格そのものがこの数年で大きく動いているからです.農林水産省によると,卸売段階の代表的な価格指標である米の相対取引価格は,2024年9月の玄米60kg当たり2万2700円から,2025年9月には3万6895円へ上昇し,前年同月比63%増となりました.ところが2026年に入ると価格は下落傾向となり,6月には3万1305円まで低下し,前月から6%下落しました.小売価格も,2026年1月の5kg当たり4248円から5月には3719円へ下がり,農林水産省は1月以降を「下落基調」としています.つまり米を取り巻く市場自体が,前年の大幅な値上がりと今年の値下がりを経験しています.このような局面では,比較する前年が特殊な水準になりやすく,「前年比」だけを見たときの印象も大きくなります.
実際の企業の数字を見てみます.コメ卸大手の木徳神糧は,2025年1~6月の中間決算で大幅な増収増益となりました.売上高は前年同期比41.9%増の840億円,営業利益は396.2%増の52.6億円,純利益は345.5%増の37.0億円でした.営業利益は前年の約5倍,純利益は約4.5倍です.
ところが,1年後の2026年1~6月は様子が一変します.売上高は884億円と前年同期比5.3%増えた一方,営業利益は83.3%減の8.8億円,純利益は80.2%減の7.3億円となりました.「前年は約5倍,今年は8割減」と聞けば,業績が激しく乱高下したように見えます.
そこで,前年同期比ではなく3年間の実額を並べてみます.
売上高は,
2024年 592億円
2025年 840億円
2026年 884億円
営業利益は,
2024年 10.6億円
2025年 52.6億円
2026年 8.8億円
純利益は,
2024年 8.3億円
2025年 37.0億円
2026年 7.3億円
です.2024年と2025年の数値は2025年の決算短信,2026年の数値は2026年の決算短信で確認できます.
2024年を100として見ると,もっと分かりやすくなります.売上高は100→142→149,営業利益は100→496→83,純利益は100→446→88です.
つまり,2026年の営業利益は確かに前年同期比83.3%減ですが,2年前の2024年と比べると約16.9%減です.純利益も前年同期比80.2%減ですが,2年前比では約11.9%減です.一方,売上高は2年前より約49.4%増えています.
「83%減」も「2年前比17%減」も,どちらも正しい数字です.違うのは比較する基準です.2025年の利益が大幅に膨らんだため,そこを基準にした2026年の減少率も非常に大きくなっています.前年の水準によって伸び率の見え方が大きく変わる,いわゆるベース効果を考える必要があります.
では,なぜニュースや統計では前年比がよく使われるのでしょうか.大きな理由の一つは,同じ季節を簡単に比較できることです.経済産業省も,前年同月比は前年の同じ月と比較するため季節的な変動を考慮せず比べやすく,簡単に計算できることから幅広く利用されていると説明しています.一方で,前年の値を基準とするため,前年同月比同士を比較するときには注意が必要ともしています.
木徳神糧の数字がこれほど動いた背景にも,コメをめぐる特殊な状況があります.2025年は令和6年産米まで需給がひっ迫し,取引価格が高騰しました.同社は政府備蓄米を含む安定供給に取り組み,原料仕入価格の変動を販売価格へ反映したことなどから,大幅な増収増益となったと説明しています.
一方,2026年は米価が高い水準で推移したことで家庭用を中心に需要が伸び悩み,令和7年産米の流通在庫が積み上がりました.在庫消化を優先した価格競争も激しくなり,米穀事業の粗利率が大幅に低下したと会社は説明しています.売上高は増えているのに,利益は大きく減ったのです.
だからといって,前年比が役に立たないわけではありません.前年から何が変わったのかを見るには便利な数字です.問題は,前年比だけから「現在が高いのか低いのか」まで判断してしまうことです.
「前年同期比80%減」と伝えるなら,「2年前比では約12%減」と添える.あるいは3年間の実額を並べる.それだけでも,数字から受ける印象はかなり変わります.
前年比は「変化」を示す数字であって,それだけで現在の「水準」を示す数字ではありません.ニュースで大きな増加率や減少率を見かけたときには,「その前年はどんな年だったのか」「2年前から見るとどうなのか」を確認すると,数字の違った姿が見えてきます.
参考文献
農林水産省「令和7年産米の相対取引価格・数量について(令和8年6月)」
https://www.maff.go.jp/j/press/nousan/kikaku/260717.html
農林水産省「米の価格を知りたい」
https://www.maff.go.jp/j/nousan/kokumotu/kome_kakaku.html
木徳神糧株式会社「2026年12月期 第2四半期(中間期)決算短信〔日本基準〕(連結)」
https://www.kitoku-shinryo.co.jp/ja/ir/news/auto_20260803507493/pdfFile.pdf
木徳神糧株式会社「2025年12月期 第2四半期(中間期)決算短信〔日本基準〕(連結)」
https://www.kitoku-shinryo.co.jp/ja/ir/news/auto_20250806532062/pdfFile.pdf
経済産業省「利用上の注意,用語の解説|鉱工業出荷内訳表・総供給表」
https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/utiwake/result-4.html

