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yamamoto15
『蟻と男』
私が腕を自由に動かせなくなってから、数週間が経過した。
忙しく働いていた頃に焦がれていた休日は早くも本来の役割を失い、私に不安と退屈をもたらすばかりである。
ある日、自室のくすんだ畳に身体を倒していると、一匹の蟻が私の目前まで懸命に歩いてやってきた。
取り立ててすることもなかったため、私はその小さな体をよくよく観察してみることにした。
男は体を横に倒し、まるで珍しいものを見つけた猫のように蟻の体をのぞき込む。
どうやら、本来六本あるはずの脚が一本足りないようである。
それでも蟻は残った脚を器用に動かし、一見して脚など失っていないかのように生命活動を続けていた。
男の眼がじっと蟻を見つめる。
ほんのわずかに細められた目には、蟻に対する幾多の感情が入り混じっていた。
男は腕を庇いながら、器用に体を立ち上げる。
その眼はどこか遠くを捉えており、狭苦しい部屋には似つかわしくないものであった。
体は、久しく感じていなかった時の流れを強く感じ始める。
「さて」
男は地を這う虫をちり紙で捕らえて屑籠に投げ入れ、早足で居間の方へと歩いていった。
