見出し画像

"続けるか、やめるか"の二択が、新規事業をゾンビにする

こんにちは、番頭のナガツネです。

予算はついた。ステージゲートも作った。撤退基準も文書にした。なのに、検証フェーズに案件がじわじわ積み上がっていく——事業企画部や事務局を任されている方なら、覚えのある光景ではないでしょうか。今日はその正体を、ある大手電機メーカーの事例と、出口戦略そのものの数字から確かめてみます。


結論

新規事業がゾンビ化する原因は、たいてい基準の精度ではありません。ゲートの選択肢が「継続」か「中止」の二択しかないことです。中止は担当者の努力を全否定するように見えるため、誰も言い出せず、案件は"検証中"のまま塩漬けになります。事務局が本当に増やすべきは撤退基準の厳しさではなく、"出口の種類"です。

なぜそう言えるか(本論)

67件のうち、出口に辿り着いたのはゼロだった

Biz/Zineが報じたNEC・松田尚久氏の講演(2026年7月23日)によると、同社は2013年に組織的な新規事業を始め、2018年からは事業開発プロセスやオープンイノベーションの仕組みを整えてきました。ところが2024年、松田氏が部門トップに就任した時点では、3つの組織が統合されたこともあり、リストには67件ものプロジェクトが並んでいた。その大半が検証フェーズで足踏みしていたそうです。

松田氏はこう振り返っています。『プロセスは回っていても、出口まで辿り着いたプロジェクトは皆無で、事業の"ゾンビ化"が起きていたのです』。

プロセス自体は動いていました。ゲートも会議体もあった。それでも67件が誰にも止められず、誰にも育てられず、そこに"いる"だけの状態になっていた。これは仕組みが無かったからでなく、仕組みの"出口"が細すぎたから起きたことだと、私は見ています。

二択のゲートは、"言い出せない"を量産する

事務局の立場で考えると、この滞留の理由は想像に難くありません。ゲートの判定が「継続」か「中止」の二択だと、中止判定は担当者にとって"全否定"に映ります。会議に上げても、「まだ可能性があるのでは」の一言で先送りにされやすい。事務局自身も、半年前に自分が通した案件を自分の口で止めるのは気が重いものです。

結果として、見込みが薄いと分かっていても、案件は"継続"の側に転がり続けます。これは担当者の甘さでも役員の優柔不断でもなく、選択肢の設計そのものの問題です。

出口は、"中止"だけではない

NCDC株式会社のコラム(2025年6月9日)は、新規事業の出口として中止以外の複数のパターンを整理しています。M&A(ソラコムのKDDIによる買収、dely/クラシルのヤフーによる買収など)、IPO、ピボット(ミクシィのSNSからゲーム事業への転換など)、カーブアウト・スピンオフ(NEC発のdotDataなど)、人材獲得を目的にしたアクイハイヤー、計画的な撤退、そして社内の既存事業部への統合——それぞれ性質が違います。

同コラムは『出口戦略の計画は、単に悲観的になるという後ろ向きな話ではありません。潜在的な価値を最大化し、リスクを管理するための、なくてはならない準備です』とも述べています。"出口"は諦めの手続きではなく、積み上げてきた検証や技術・人材をどう回収するかの設計です。

事務局のゲートシートに「継続/中止」しか欄がなければ、これらの選択肢はそもそも検討の土俵に上がりません。土俵に無いものは、選ばれようがないのです。

出口は5種類ある——継続の隣に置くべき選択肢

二択と多択で、"塩漬けコスト"はこれだけ違う(試算)

数字で見てみます。仮に、検証フェーズのテーマを15本抱える事務局を想定します。1テーマあたり専任・兼任を合わせて月20万円相当の工数がかかっているとしましょう。二択のゲートでは"中止"の決定が先送りされやすく、平均して半年、判断が遅れるとすると——

15本 × 20万円 × 6カ月 = 1,800万円

これが、"言い出せないまま"検証フェーズに空費される試算額です。出口の選択肢を増やし、中止ではなく「ピボット」「技術移管」「計画的撤退」として着地できる案件を増やせば、この判断の先送りは確実に減らせます。中止という重い判定に集約させず、案件ごとに軽い着地点を用意すること自体が、事務局にとっての時間の投資対効果になります。

メニューを増やすときの落とし穴

ただし、出口の種類を増やせば済む話でもありません。事務局側で決めておくべきことが二つあります。

まず、"ピボット中"や"検討中"を、中止判定の先送りに使わせないこと。出口メニューにも期限を切り、次のゲートで再評価する日付をセットで決めます。

次に、メニューは絞ること。多すぎる選択肢はかえって判断を割ります。継続・ピボット・技術移管(ライセンス)・カーブアウト/スピンオフ・計画的撤退の5種程度に絞り、それぞれ誰が最終判断者か、どの予算枠から出すかを事前に決めておく。出口の種類を増やす目的は選択肢を広げることであって、判断を曖昧にすることではありません。

明日やる1つ(ネクストアクション)

次回のゲート会議の資料テンプレートを開いて、「継続/中止」の欄を、「継続・ピボット・技術移管・カーブアウト/スピンオフ・計画的撤退」の中から選ぶ欄に差し替えてみてください。まずは今すでに検証フェーズで止まっている案件を1つ選び、この5択に当てはめるところから始めるのがおすすめです。"中止"としか書けなかった案件が、実は"技術だけ他部署に渡せる"かもしれません。


《この発信について》平日毎日更新/
月:事業開発の事例分析
火:ノウハウ
水:悩みQ&A
木:失敗と落とし穴
金:経営/事務局視点
本日は金曜=事業開発の経営・事務局視点です。


※本記事は公開情報と筆者の経験に基づく一般的な考察であり、特定の企業・案件を指すものではありません。
 補助金・融資・税務・法務など個別の判断は、最新の公式情報をご確認のうえ、専門家にご相談ください。
 投資・経営の最終判断はご自身の責任でお願いします。
出典:Biz/Zine「事業の"ゾンビ化"を防ぐ。NEC松田氏が語る、停滞プロジェクトを打破する多様な「出口戦略」」(2026年7月23日)/NCDC株式会社「なぜ新規事業において出口戦略の早期検討が重要なのか?事例を中心に解説」(2025年6月9日)

#新規事業 #新規事業開発 #ステージゲート #撤退基準 #経営会議 #カーブアウト

いいなと思ったら応援しよう!