ご飯につられて落研に入った話
大学に入学したての私は、それはそれは絵に描いたようなお上りさんだった。
ただでさえ田舎の徳島のこれまたさらに田舎の、車がないとどこにも行けないような小さな町から、電車が10分に1本来るような都会に出てきたのだから、仕方ないっちゃ仕方ない。
(ちなみに徳島に電車はない。これについても語りたいことは多いのだが、長くなるのでまた別の機会に)
学部のオリエンテーションを終え、昼食をどこで食べたらいいのかわからず、とりあえず人の流れに乗って歩いていた。
そんな私に声をかけてきた人がいた。
同じオリエンテーションに出席していた、私と同じくらいのお上りさん具合の子だった。
「良かったら友達になりませんか?」というようなことを言われて、もちろん快諾した。
というわけでいきなり友達ができてしまったが、当然その子も昼食をどこで食べたらいいかわからなかった。
どうしようね、などと話していると、突然話しかけられた。
「こんにちは、落研に入らない?」
落研?
聞いたことはある。確か落語研究部?落語研究会?のことだ。
でも落語なんて見たことないし、興味もない。
入学したら部活やサークルの勧誘に合うだろうことはわかっていたが、こんないきなりストレートに誘われて、どうやって断ったらいいのか――
「お昼ご飯おごるよ!」
ついていくことにした。
お昼ご飯を食べながら部活の紹介をされて、部室を見に行って、先輩の面白い話を聞きながら練習風景を見せてもらった。もちろん、友達も一緒に。
一人で複数人の役するの大変そうやな〜。
落語だけじゃなくて太鼓とか三味線も演奏するんや〜。
へーと思うことはあっても、それでもまだ落研に入る気持ちはなかった。
「この後晩ご飯食べに行く?新入生はただやで!」
食べに行くことにした。
その後もイベントや日々の見学に誘われては顔を出したり出さなかったりした。
ある日、新入生向けの落語会があると聞いて見に行った。
練習風景は見たことがあるものの、落研の人の落語を通しで見るのはこれが最初だった。
面白かった。
一人で喋っているのに確かに複数人いるように見えて、ずっと座っているから動きなんてほぼ上半身だけなのに、登場人物がどういう状況か想像できる。
不思議な感覚だった。
部室で練習していた太鼓や三味線、笛は、演者が登場する時の登場曲だったんだ、とこの時気付いた。
すだれの裏で生演奏されていた。
落語会の後、打ち上げについて行った。
もちろん新入生は無料だった。
飲み会の途中、そこそこ新入生が集まっている場で、入部の意思を順番に確認された。
「落研に入ってくれますか!?」
入ることにした。
ところで、私はフォークデュオのゆずが好きだ。
ゆずが2007年にリリースした『明日天気になぁれ』という曲がある。
この曲は映画『しゃべれども しゃべれども』の主題歌で、『Original Soundtrack Single 映画「しゃべれども しゃべれども」』の中の一曲として発売された。
このCDの中には落語「火焔太鼓」が収録されている。
今思えば、私の初めての落語体験は、この「火焔太鼓」だったのかもしれない。
視覚情報なしでも楽しめて、ゆずっこ(ゆずのファン)ならクスっとできる小ネタも入っていた。
もう一つところで、私は太鼓が好きだ。
私が住んでいた地区の小学生は全員(と言っても田舎のさらに小さい地域なので20〜30名ぐらい)、地域のお祭りに向けた太鼓の練習にほぼ強制参加だった。
そんな中、6年生のみ叩くことが許される大太鼓は皆の憧れだった。
あの唯一無二の存在感と腹に響く重低音といったら――お祭りが終わるのが惜しい、もっと太鼓を叩きたいと思わせるほどには魅力的だった。
あれから20年以上経っても、まだお囃子のリズムは覚えている。
入部した理由は、決してご飯につられたからだけではない。決して。本当に。
自分の好きなものと少し関わりがあって、自分にできるかどうかはおいておいて、落語そのものや先輩が面白いと思ったから、入ってみようかなと思ったのだ。
ちなみに、最初に友達になった彼女も入部していた。
まさかお互い高座に上がることになろうとは、出会った時には想像もつかなかった。
母に落研に入ったことを告げるとこう言われた。
「ええんちゃう。あんたっておるだけで面白いけんなぁ」
失礼なことを言われている気がするが、褒め言葉として受け取っておいた。
だってこれから私は面白いことをやっていくんだから。
