白雀赤雀来て菊の酒 芥川龍之介の俳句をどう読むか132
菊の酒酌むや白衣は王摩詰(わうまきつ)
桃の花青雀今日も水に来ぬ
大正七年十月十四日、小島政二郎に宛てられた手紙に添えられた句だ。




菊の酒酌むや白衣は王摩詰(わうまきつ)
この句は「君に勧む更に尽くせ一杯の酒」からの発想か。そこに陰暦の重陽を数えて菊の酒としたものであろう。


さすがは算数が好きだったというだけのことはある。というのは嘘で、私の記憶が確かなら、明治五年に太陽暦が採用された後も、日めくりカレンダーには旧暦が表示されていた。
桃の花青雀今日も水に来ぬ
桃の花は春の季語。花が咲くのは三月から四月なので、これもかなり季節外れの句となる。問題は「青雀」、これがまたわからない。

まず「あをすずめ」とは読まないだろう。

李時珍曰、爲鳥、處處山林有レ.之大如鴿鶴、蒼褐色、有黃斑〓、好食粟稻、其智喙微曲、而厚壯光螢、或淺黃淺白、或淺靑淺黒、或淺玄淺丹、爲類有九種、皆以喙色及聲音別之、非謂毛色也、爾雅又云、桑属、竊脂郭注、俗謂之靑雀
狩谷棭斎 著印刷局 1883年
そもそもそれがどんな生き物であるかということさえ確かではない。


一応現在では「アオガラ」に「青雀」の漢字をあてることが多いのだが、上代の歌にみられる「青雀」は「アオガラ」ではないのではないか。

たとえばここでは「しめ」と訓ぜられる。

元々は嘴の曲がった脂身を好む鳥で、

上代の日本では「め」と呼ばれていた。これが同一のものであるかどうかは定かではなく、少なくとも嘴の曲がっていない「アオガラ」は古代中国の「青雀」とは別物であると考えられる。



おそらく芥川は青雀を「せいじやく」と読ませるつもりで詠んだのであろう。そしてまたこれが人でないという確信が持てない。
あるいは「アオガラ」は人に慣れやすい鳥なので、芥川はシンプルに「アオガラ」が来ないよと詠んだつもりかもしれない。ただまあ、小島政二郎に画を見に来いと誘う手紙に添えられているので、
桃の花青雀今日も水に来ぬ
小島政二郎は今日も絵を見ずにいて、まだ来ないことだよ、と詠まれてもいるとみておこうか。
