醫學博士 長與又郞氏「夏目漱石氏剖檢」
「夏目漱石氏剖檢」
夏目漱石氏剖檢 醫學博士 長與又郞氏
十二月十日の午後、余は東大醫科大學解剖室に於て、夏目漱石氏の屍體解剖の刀を執つた。
この解剖の目的は、漱石氏の腦を研究し、死因を檢するためであり、延いては消化機病の系統を調べるためであつた。したがつて、今回の解剖は頭部と腹部とに限り、他の個所には及ばなかつた。
漱石氏の腦の重量は、千四百二十五瓦あつた。普通日本人の腦の重量は千三百五十瓦內外であるから、氏のは七十五瓦重いわけである腦の量の重い事は、優れた人であるといふことを意味する。しかしそれは絕對ではない。
現に東京市の一行路病者の腦量は、千七百瓦もあつた。日本では、偉大な人物の腦量を檢したことは、極めて少なく、僅か七八十例に過ぎない。その例の內で、普通人の腦量よりも輕いのが七八例あるが、他はすべて重い。この點から見ても漱石氏は傑出した人であつた。更に氏の腦の回轉狀態は、甚だ複雜であつて、左右の前頭葉顱頂*部、わけても右が發達してゐた。
更に氏の腦の回轉狀態は、甚だ複雜であつて、左右の前頭葉顱頂*部、わけても右が發達してゐた。腦の回轉狀態に關する詳細の研究は、今後に竢つて、茲には述べないことにする。
※「竢つ」…待つ。たよりにする。たちどまる。
氏の死因は胃潰瘍であつたが、既往症としては、明治四十三年六月、胃酸過多症に罹られ、輕度の糖尿病と認められた。翌四十四年一月上旬、氏は伊豆修善寺に療養中、俄然吐血されて、人事不省に陷つた。その時には明らかに胃潰瘍であることがわかつた。
最近の病狀の著るしい變化は、十一月十六日に粕漬の鵜を食されてからだ。氏は其晩から胃の膨滿を感じられ、疼痛を覺えられた。
越えて廿一日にある結婚披露の式に臨まれ、歸られてからしきりと不快がられた。廿二日には疼痛不快を增し、嘔吐された。しかしその折には血液はなかつた。
廿八日の夜十一時半頃、氏は不意に床上に起き上り、あつと叫んだまま人事不省に陷つた。脉がなかつた。傍から冷水を注いだので、氏はやうやく意識を恢復された。その夜中三時頃に、胃或は十二支膓の內出血のあつたことが、便秘で知れ た。十二月二日午後三時頃、氏は大便を催して自身起き上がつた。そして强く腹壓を試みた瞬間に、またしても打倒れて人事不省に陷つた。血便があつた。
臨床の結果から見ると、氏には二つ病症があつた。一つは糖尿病これは明治四十三年に胃膓病院入院當時からであり、であつて、ま一つは胃の症狀、即ち胃潰瘍であつた。而して死の直接原因は、十一月廿八日及び十二月三日の二回の大出血にあつた。
消化機の方の解剖の結果は、腹部が太鼓狀を成してゐて、非常に緊張してゐた。開いて見ると、それは瓦斯の爲めではなくつて、膓の內容が充滿してゐたのである。そして其の壁を通して大出血の跡が見え、蟲樣突起を中心として、上行結膓肝臟橫隔膜の間に癒着のあつた事を發見した。第二回の大出血後、氏はしばしば鷹がひつばられるやうだと愬えられたが、それは腹膜が刺激狀態にあつたからである。それで蟲樣突起の形が變つてゐて、普通のものとは反對の方向に、まるで釣針狀に曲つてゐた。之は甞て氏が蟲げ突炎を患つたことを證するものであつて、氏の親友中村是公氏の話によると氏は二十歲の書生時代に腹膜炎を病まれたといふが、解剖の結果明らかにその病歷が示されてゐる。
次いで膓及び十二指膓を開いて見たが、ここには何等出血痕を見なかつた。胃に及んで始めて特有の潰瘍を發見した。それは幽門部の上方約五センチメートルのところにあつて、長さは五センチメートル、幅は一センチメートル半あつた。この潰瘍の內には、大きく破れた二つの跡があつて、右の方は十二月二十八日の大出血を示し、左の方は十二月二日の大出血を示してゐる。胃の中は最後まで胃酸過多症を持つてゐた。幽門部には三つばかりの斑痕があり、閉窄症の疑ひがあつた。其他の諸臟器に於ては、何等の異樣を見なかつたが、肝臟脾臟、ことに後者の如きは灰白色になつてゐて、實質が非常に增してゐた。腎臟は糖尿病の結果小さく堅くなつてゐた。
十二指膓には、潰瘍の跡はなくつて、一ぱいにどす黑い血液がかたまつて居、その附近の淋巴線まで、多くの血液を吸收した樣が看取され、いかばかり大きい內出血であつたのを偲ばしめる。
玆に一代の文豪たる氏を知る上に、極めて重大な問題がある。氏は天才肌のカラクテルをもつて居られ、甚だ我儘であつたが、近來時としては發作的に、追跡症の症狀があつたやうである。この症狀は胃潰瘍と何等關係はなくして、糖尿病から來た結果である。
※「カラクテル」……Caracter、性格、個性。
由來、糖尿病には、一種の精神症狀が隨伴するものであつて、佛蘭西の學者ノルデン氏の著書によると、一般に糖尿病患者には、精神症狀があつて、仕事に對する倦怠が著るしいと書いてある。
事實、糖尿病患者は、よくメランコリーに陷ることがあつて、時とすると自殺をさへ决行する。從つて糖尿病を治療すると、かうした精神症狀も同時に治療することがある。
追跡狂は、ノルデン氏の言の如く、糖尿病患者に起る症狀であるばかりでなく、天才の人に往往認められる發作である。ロンブローゾの如きは、多くの天才的の人は、種種精神的症狀を現はすものであつて、時としては全く精神病者さへある。云ひ換へれば、天才は精神病者に異ならないとまで云つてゐる。
漱石氏のやうに腦の非凡な天才者には、恐らくこの素質があつたに違ひない。そして更に糖尿病の爲めに、この種の傾向を誘引されたのであらうと思ふ。
何れにもせよ、漱石氏と消化器系統との關係は、極めて興味深い問題である。氏の數多くの傑出した文學上の作物は、氏が常住胃を惱んでゐられる傍ら成つたものであることを思ひ、更に向來臨床上敬意と弔意とを併せの貴重なる資料を與へられたることを深謝し、表するものである。(雑誌「新小説」「文豪夏目漱石」より)
[出典]『四季の文章修行』水野葉舟 著博文館 1920年
[付記]
典拠にあるとおり、どうもこれは小宮豊隆が少しいじくったものではなかろうか。三重吉はそんなことはやらないだろうし、他の者がいじくったりすれば間違いなく小宮豊隆が叱った筈だ。「十一月十六日に粕漬の鵜を食されて」は久米正雄の記録にもあったことだが、この医者は知らないだろう。
それにしても粕漬の鵜を贈った人が気になる。
“อันตัวข้าพเจ้านี้คือแมว นามนั้นยังไม่มี”
— ร้านกลิ่นหนังสือ (@klinnangsue) August 4, 2022
มองโลกและมนุษย์ผ่านสายตาของแมวไร้นาม ที่เกรี้ยวกราดยามเบื่อหน่ายโลก ผ่านปลายปากกาหนึ่งในนักเขียนผู้ยิ่งใหญ่ในประวัติศาสตร์ญี่ปุ่นสมัยใหม่ Natsume Soseki#อันตัวข้าพเจ้านี้คือแมว I am a Cat
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英語だと吾輩も僕も「I」なので、こんなことになってしまう。捨て猫が「吾輩」と威張っている感じが永遠に伝わらないのか。
たのしい日本語講座 pic.twitter.com/cIIG6Cht8W
— こあたん🇦🇺こあらの学校 (@KoalaEnglish180) July 9, 2022
