『三四郎』の謎について45 三四郎は何故美禰子を選ばなかったのか?
何が45だ、もういい加減にしろ、それにしたっていまさら「三四郎は何故美禰子を選ばなかったのか?」でもないだろう「美禰子は何故スマホを持っていないのか?」とかやれよ、とお叱りを受けるかもしれませんが、これだけは書いて死にます。いや、まだ死にません。死ぬまで生きますよ。でも人間いつ死ぬか解らないので、今日書いてしまいます。
ええと、「三四郎は何故美禰子を選ばなかったのか?」なんて問題の立て方はそもそも近代文学1.0的な感じで駄目なんじゃないかとお考えの皆さん、少しは近代文学2.0のことがおわかりになってきたんじゃないですか。でも、それ、この期に及んで私の事を信用していただいていないということでしょうか?
最後にはちゃんと落として見せますよ。
とりあえず「三四郎は何故美禰子を選ばなかったのか?」と考えた時、思い浮かぶことは何ですかね?
色々ありますね。電気を引かない下宿に住む三四郎は、三十円で一年暮らせる田舎者です。美禰子とはそもそも住む世界が違います。よっぽど度胸のない方なので入鹿じみた心持でいながら、野々宮を斬れませんでした。
まだ美禰子一人に絞る覚悟もなく、不思議な力でよし子にも惹かれていました。美禰子の態度の中に愚弄されているようなものを感じて戸惑っても居ましたね。与次郎が言うように、そもそも風馬牛なのだとも言えます。色々な見立てがあって、一つの理由には絞られないと思います。
それでも根本の所、無理にでも三四郎が踏み出しかねた最大の理由は、単に三四郎に意気地がなかっただけではなくて、「女は恐ろしい」と思わせる美禰子との相性もあったのではないかと考えられます。
美禰子は汽車の女の上位交換モジュールだと書きました。汽車の女は三四郎の不意を突いて怖がらせます。
元来あの女はなんだろう。あんな女が世の中にいるものだろうか。女というものは、ああおちついて平気でいられるものだろうか。無教育なのだろうか、大胆なのだろうか。それとも無邪気なのだろうか。要するにいけるところまでいってみなかったから、見当がつかない。思いきってもう少しいってみるとよかった。けれども恐ろしい。別れぎわにあなたは度胸のないかただと言われた時には、びっくりした。二十三年の弱点が一度に露見したような心持ちであった。親でもああうまく言いあてるものではない。――(夏目漱石『三四郎』)
飽くまでこれが「ふり」なんですから、物語としての『三四郎』の「おち」は美禰子が恐ろしいから手が出なかった、ということになるでしょう。
「女は恐ろしいものだよ」と与次郎が言った。
「恐ろしいものだ、ぼくも知っている」と三四郎も言った。(夏目漱石『三四郎』)
ここで三四郎の言う「女」はもう汽車の女ばかりではありませんね。よし子にはなんだか懐かしみを覚えてすっかり安心しています。この「女」は里見美禰子です。
では里見美禰子の何が恐ろしいかと言うと、「迷える子」や「我はわが愆を知る。わが罪は常にわが前にあり」みたいな場面の駆け引きが恐ろしいばかりではなくて、
「そう。実はなっていないの」と言いながら、仰向いた顔をもとへもどす、その拍子に三四郎を一目見た。三四郎はたしかに女の黒目の動く刹那を意識した。その時色彩の感じはことごとく消えて、なんともいえぬある物に出会った。そのある物は汽車の女に「あなたは度胸のないかたですね」と言われた時の感じとどこか似通っている。三四郎は恐ろしくなった。(夏目漱石『三四郎』)
汽車の女は「目がはっきりしている」女でした。美禰子に射すくめられた時、三四郎は汽車の女を思い出して恐ろしくなったわけですよね。しかし汽車の女の怖ろしさって何でしたっけ。それ、一言でいえば「無教育なのだろうか、大胆なのだろうか。それとも無邪気なのだろうか」と三四郎をまごつかせる訳の分からなさですよね。
そういう意味では「迷える子」や「我はわが愆を知る。わが罪は常にわが前にあり」も三四郎を混乱させています。しかし最初にやられたのは、例の「白い花」でしょう。ここは読者も嵌められてしまいます。三四郎には美禰子が白い花の匂いを嗅いだように見えた。そして花は捨てられ、拾った三四郎が嗅いでみると匂いはしないわけです。謎です。この時点でもう三四郎は魔法にかかっていますね。何故匂いのしない花を嗅いだのか、真剣に考えてくれる人がいます。三四郎はそこまで考えていません。
ただ美禰子はこつこつ謎を仕掛けてきますね。三四郎と話者はそこを大げさにフォーカスしないんです。それでもよく読むと、漱石がわざとやっているな、ここは引っかかりを作ろうとしているなという部分があるんです。大抵の人はここには引っかかると思います。
「美しいこと」と言いながら、草の上に腰をおろした。草は小川の縁にわずかな幅をはえているのみである。それすら夏の半ばのように青くはない。美禰子は派手な着物のよごれるのをまるで苦にしていない。
「もう少し歩けませんか」と三四郎は立ちながら、促すように言ってみた。
「ありがとう。これでたくさん」
「やっぱり心持ちが悪いですか」
「あんまり疲れたから」
三四郎もとうとうきたない草の上にすわった。美禰子と三四郎の間は四尺ばかり離れている。二人の足の下には小さな川が流れている。秋になって水が落ちたから浅い。角の出た石の上に鶺鴒が一羽とまったくらいである。(夏目漱石『三四郎』)
美禰子がさつ、と思いましたよね。私は最初に読んだ時からずっと思っていました。着物って普通水洗いしないので、汚れたら大変ですよ。それに昔だって結構高いものだったんです。それが三四郎もためらうくらいの汚い草の上に平気で腰を下ろすわけですよね。結構ここは気になっていて、美禰子って女は変わっているな、とは思っていたんです。ただ「わからない」というだけで『三四郎』という小説の筋に絡めて考えるってことは44までしてこなかったんですね。つまり前の記事迄。今日の午前中までは。
それが午後になって、急に気が変わりました。そういえば、……と思い出したのです。
「なにか先生に御用なんですか」
三四郎は突然こう聞いた。高い桜の枯枝を余念なくながめていた女は、急に三四郎の方を振りむく。あらびっくりした、ひどいわ、という顔つきであった。しかし答は尋常である。
「私もお手伝いに頼まれました」
三四郎はこの時はじめて気がついて見ると、女の腰をかけている椽に砂がいっぱいたまっている。
「砂でたいへんだ。着物がよごれます」
「ええ」と左右をながめたぎりである。腰を上げない。(夏目漱石『三四郎』)
美禰子がさつ、と思いましたよね。そうなんです。美禰子はがさつなんです。しかしこのがさつさは癇性、異常に綺麗好きな性質、 潔癖症の三四郎をストレートに嫌悪させるものではなく、「わからない」として戸惑わせるものではなかったでしょうか。
そうです。女はわからないから恐ろしいのです。どうしても謎の呪文ばかりに目がいってしまいがちですが、よく読むとむしろこの「着物が汚れても平気」な美禰子の方が上辺ではないところで謎ではないでしょうか。言葉なんて所詮上辺ですから、云おうと思えば何とでも云えます。しかし行動の方は覚悟が要ります。着物を汚すってなかなかできませんよ。ここには美禰子の本質的なものが現れていると見てよいんでしょう。そうすると、「無教育なのだろうか、大胆なのだろうか。それとも無邪気なのだろうか」三四郎には判断できません。するとこれも女の恐ろしさの要素に加わります。
「三四郎は何故美禰子を選ばなかったのか?」という問いの答えの一つには、美禰子は着物が汚れても平気な女だから、というものもある、というお話でした。
そんな女、コンビニの前で地べたに坐ってスマホを観ながらかんぴょう巻を手づかみで食べている腐女子と同じでしょう。怖くてなかなか近寄れませんよね。
[余談]
このサイト、あれやね。
しかし自分の方がおかしい気がする。
こんなこと続くかな?
大震災から99年。丸山眞男文庫草稿データベースからは丸山眞男少年(当時9歳)の「大震災大火災の思出」が読めます。自警団による朝鮮人虐殺を見る丸山眞男少年の視線など、生々しい時代の記録にもなっています。https://t.co/bkhMxzcctL pic.twitter.com/3k57BIMCIp
— 河野有理 (@konoy541) September 1, 2022
夏の終わりの君たちへ。
— toshibo|廃墟と写真 (@JIYUKENKYU_jp) September 1, 2022
8月32日の入口はこっちだよ。 pic.twitter.com/INagqLpOIz
去年のグラコロに続き、コメダがマックにバチバチにぶつけて来てる pic.twitter.com/lYs1DyYAsV
— 愚鈍 (@po_iz) September 1, 2022
言語学と哲学は似ていて、完全に無知な状態でも自分には理解できると勘違いしたオーディエンスが大量に湧いてくる。言説に自分が知っている言葉が含まれているからで、実際にはその言葉は特殊な文脈で扱われているのだが、日常の感覚で理解され、誤読される。
— すきえんてぃあ@書け (@cicada3301_kig) September 1, 2022
はい、これが現実
— ダイエット@ボディメイク系:吉村明紘 (@yosshiy_aki6) September 1, 2022
だから、9.11の時
DSユダヤが避難してた話と同じ
3.11の時に在日系主要人物は知っていた
政治家ですら!当時の総理管も含め
奇怪な言動多数!
だいたい、原発管理がイスラエルの会社?
翌日には沿岸に100隻の米軍艦隊が?
それを、思いやり作戦!って
あほか!お人好しも程々だわ pic.twitter.com/M7gqFTzXPR
これ、真理だと思うわ pic.twitter.com/dpxBVirTKg
— 夕菜 (@kaitoredbull) August 25, 2022
