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『羅生門』支配とENF

 下人の憎悪は自分の意志の下に老婆の生死を治めた時に消えている。

 下人は、老婆をつき放すと、いきなり、太刀の鞘を払って、白い鋼の色をその眼の前へつきつけた。けれども、老婆は黙っている。両手をわなわなふるわせて、肩で息を切りながら、眼を、眼球めだまがまぶたの外へ出そうになるほど、見開いて、唖のように執拗く黙っている。これを見ると、下人は始めて明白にこの老婆の生死が、全然、自分の意志に支配されていると云う事を意識した。そうしてこの意識は、今までけわしく燃えていた憎悪の心を、いつの間にか冷ましてしまった。後に残ったのは、ただ、ある仕事をして、それが円満に成就した時の、安らかな得意と満足とがあるばかりである。そこで、下人は、老婆を見下しながら、少し声を柔らげてこう云った。(芥川龍之介『羅生門』)

 最終的にembarrassed nude femaleを見るとすれば、ここで白い鋼の色は老婆をメイルドムに追い込んでいると見て良いだろう。

 下人は、すばやく、老婆の着物を剥ぎとった。それから、足にしがみつこうとする老婆を、手荒く死骸の上へ蹴倒した。梯子の口までは、僅に五歩を数えるばかりである。下人は、剥ぎとった檜皮色の着物をわきにかかえて、またたく間に急な梯子を夜の底へかけ下りた。(芥川龍之介『羅生門』)

 裸にして蹴倒す。この時点では憎悪はないのだ。憎悪なく、手荒く死骸の上へ蹴倒したのだ。

「きっと、そうか。」
 老婆の話が完ると、下人は嘲けるような声で念を押した。(芥川龍之介『羅生門』)

 老婆のロジックが老婆の着物を剥ぎ取る口実を与えたことに気が付いて、下人は念を押したのだ。村上春樹の挿入射精型のシンプルな性描写に慣れ切った高校生が、最初に教科書で読む小説として『羅生門』が相応しいのかどうか、そうした問題を考える上では、ここに言葉による弄り、スキニーでグラニーでアグリーな裸体が現れること踏まえておきたい。またその裸体が積み重ねられた死骸の中に現れることに鑑みれば、これこそまさに高校生に相応しい最高の題材だと思える。それは若い女の蒲団の匂いを嗅ぐような小説家の自然では届かないところ、偽物の糞を拵えて男に盗ませる『好色』の侍従の機智がある。


 平中は殆ど気違ひのやうに、とうとう筐の蓋を取つた。筐には薄い香色の水が、たつぷり半分程はひつた中に、これは濃い香色の物が、二つ三つ底へ沈んでゐる。と思ふと夢のやうに、丁子の匂が鼻を打つた。これが侍従の糞であらうか? いや、吉祥天女にしてもこんな糞はする筈がない。平中は眉をひそめながら、一番上に浮いてゐた、二寸程の物をつまみ上げた。さうして髭にも触れる位、何度も匂を嗅ぎ直して見た。匂は確かに紛まぎれもない、飛び切りの沈の匂である。
「これはどうだ! この水もやはり匂ふやうだが、――」
 平中は筐を傾けながら、そつと水を啜つて見た。水も丁子を煮返した、上澄みの汁に相違ない。
「するとこいつも香木かな?」
 平中は今つまみ上げた、二寸程の物を噛みしめて見た。すると歯にも透る位、苦味の交つた甘さがある。その上彼の口の中には、急たちまち橘の花よりも涼しい、微妙な匂が一ぱいになつた。侍従は何処から推量したか、平中のたくみを破る為に、香細工の糞をつくつたのである。
「侍従! お前は平中を殺したぞ!」
 平中はかう呻うめきながら、ばたりと蒔絵の筐を落した。(芥川龍之介『好色』)

 …だとしてもその場で食うか? というテーマで討議させるなら『好色』も良い。良いが、これは家庭科の教材だろう。










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