Photo by
kae569
図書館の左側
前を歩くおじさんの紙袋に、分厚い単行本が4冊。
どんな本だろう。タイトルが気になる。
少しだけ飛び出た背表紙には「数学の……」。
少しくたびれたスーツに、年季の入った本。
先生だろうか。
そう思ったら、本の天に図書館の印が見えた。借りてきた本か。
図書館、大人になってからあんまり行かなくなったな。
――思い出すのは、自動ドアを抜けて入った瞬間の、あの冷たくてパリッとした空気。
入ってすぐ、右側は児童書と趣味のコーナー。
子どもの頃は右側へ真っ直ぐ向かっていた。
たまに大人たちが向かう左へ探検に行くが、本棚も高く、通路に入るとなんとなく暗い。急に心細くなって、隣の通路に人がいないか本の隙間から覗いたりしていた。
一番奥の広い空間では、大人たちがベンチで新聞を読んでいる。インクの匂いが少し濃くなる。新聞をめくる音だけがやたらと響く中、ペタペタ歩く私にチラリと向けられる視線。私は少し重めの空気から逃げるように右側へと戻る。
目の前を歩くおじさんは、きっとあの左側の人だ。
久々に図書館に行こう。
まずは貸出カードの更新だ。
気づけば、おじさんはいなくなっていた。
