シン・長田を彩るプレイヤー~新長田のまちとダンス~(前編)
今回は、新長田を拠点とする「NPO法人 DANCE BOX」の事務局長・文(あや)さんにお話を伺いました。
※本記事は、2021年8月にKOBE007が取材した記事のリメイクです。
DANCE BOXは1996年に大阪で始動。以来、コンテンポラリーダンスを軸に自由な表現を追求しながら、多くの新しいアーティスト・作品を生み出してきました。
DANCE BOXが運営する「ArtTheater dB KOBE」は、コンテンポラリーダンスをメインとする日本有数の劇場です。
文さんは、事務局長としてコンテンポラリーダンスの企画や発表の場をマネジメントする一方、ダンスカンパニー 千日前青空ダンス倶楽部のダンサー「稲吉」として、自ら表現者としても活躍されています。
前編では、文さんの作る表現の場についてお伺いしました。
プレイヤーとマネージャー、二足のわらじ
-記者-
本日はよろしくお願いします。
まずは、経歴やダンスを始めたきっかけについて教えて下さい。
-文さん-
小さいころに、親や伯母の勧めで児童劇団に入ったので、物心つく前から舞台は身近な存在としてありましたね。
小学校に入ってからは綺麗な世界に憧れてバレエを始めました。
高校生くらいまではお稽古としてバレエを続けていましたね。
その中で私はバレエ向きではないなと思って・・・。
踊りは好きだったので、そこから踊り探しの旅に出た感じです。
-記者-
そして、今されているのが、コンテンポラリーダンスですね。
文さんはDANCE BOXの立ち上げ当初から関わられていたと思うのですが、当時はマネージャーとしてではなく、プレイヤーの立場だったのでしょうか?
-文さん-
両方ですね。
ダンスの存在を社会に広めたいと強く思っていた時期なので、ダンスの公演をもっと多くの人に観てもらえるような環境をどう作っていくかを考えていました。
ただ、そんなにたくさんのダンサーが近くにいたわけではないので、私たちも数多く舞台に出る、二足のわらじでした。

-記者-
「ダンスの公演をもっと多くの人に観てもらえるような環境を作る」とは具体的にどういうことでしょうか?
-文さん-
ダンサーや振付家がどうやって社会的地位を築いていくか、少なくとも1つの職業として認められるにはどうしたらよいかという、基盤作りそのものに取り組んでいました。
劇場って公演を1回するのにもお金がかかるので、みんな自費負担になったりするんですが、踊り手の負担ではない踊る場をどう作るのか、例えば、ダンスアーティストを公募して出演してもらうことをプログラム化したりしています。
-記者-
ふつうにダンサーとして踊っていると、そこまでの考えになかなか行きつかないのかなと思うのですが、そこに踏み切った理由はあったのでしょうか?
-文さん-
一緒にDANCE BOXを始めた私のダンスの師匠の考え方が大いに刷り込まれてるとは思います。
自分の足元というか、自分が生きていく世界は自分で作る、ということやと思うんですけど、師匠や周りのダンサーたちとお話をしながら1年くらいそういう試みをやっていました。

違う人が集まるのが、社会
-記者-
それでは、文さんが“今”一番取り組んでいること、力を入れていることは何ですか?
-文さん-
一番力を入れているのは「こんにちは、共生社会(ぐちゃぐちゃのゴチャゴチャ)」※①というプログラムですね。
※①障がいの有無、経済環境や家庭環境、国籍、性別など、一人一人の差異を優劣という物差しではなく独自性ととらえ、幾重にも循環していく関係性を生み出すことを目的としたプロジェクト。2023年3月現在もプロジェクトは継続中。
-記者-
具体的にどういったことをされているんですか?
-文さん-
芸術や文化を通じての新しい出会いや、コミュニケーションの方法が違う人とも対話が生まれれば、ということでやっています。
例えば、聴覚に障がいがある人とのコミュニケーションの一つに筆談があるんですけど、去年実際に筆談で会話するととても賑やかだったんですよ。
-記者-
インターネットのブログとかで盛り上がるようなイメージでしょうか?
-文さん-
そういうイメージですね。
今やっているミーティングを筆談でするような感じなんですけど、それがすごい面白かったんですよね。

-文さん-
聴覚に障がいがある人たちと手話で会話しようとすると、手話がわからない人たちがマイノリティーになってしまうので、それを乗り越える何かがあると面白いなと思って、企画してみたんです。
-記者-
とても面白い企画ですね。
-文さん-
ただ、いわゆる共生社会という考え方はあまり好きではないんです。
そんな風に言わんでもそれが普通やんって思います。
みんな違うし、好きなものも、身長も、足のサイズも違うしっていう。
なんか違う人が集まるっていうのが社会でしょ。
それをわざわざキャンペーンみたいに共生社会とか言っているのは気持ち悪いな、と思いながらやってます。
車いすの人も、目の見えない人も、耳が聞こえない人も、かなりうちの劇場に関わっていると思うんですよ。
本来ならば、別にそれをプロジェクト化しなくても、お芝居を見て、「あの足の動かない人も出て、踊ってるなあ」とふつうに思う、なんかそういう場になればいいなって思っています。
今取り組んでいることとしては、誰もがアクセスできる広場をつくりたいっていうのがありますね。
-記者-
あらゆるバックグラウンドの人が集えるような表現の場を作ることに力を入れられているんですね。
-文さん-
力は全部に入っているんですけどね、多分。
でもまあ取り組んでるのはそうかな。
ちょうど今年で3年目なんですけど、一応5年のプロジェクトとしてやってて、あと2年でどうできるのか。
どうなれば成功、不成功というものでもないんですけど。
-記者-
何をクリアできればゴールということはなくとも、新長田DANCE BOXを拠点として、今よりももっと、地域の誰もが関われるような場を作りたいという思いがあるんですね。
-文さん-
皆さんは、「新長田アートマフィア」※②ってご存じですか?
※②長田区の新長田地域を中心に独自の拠点を運営しながら、表現活動を支援する人々の集合体。
各々の拠点は、病院、クライミング・ジム、古民家、コミュニティ・スペース、多世代シェアハウス、アトリエ、事務所、劇場、自宅のように用途も属性も多岐にわたる。
メンバーそれぞれやってることは違うけれど、みんな、「地域の誰もが関われるような場を作っていきたい」と思いながらやっていると思います。
様々な立場の人が、それぞれの場所で同じようなことを考えて、みんながそういう発想になっていけば、まち全体が寛容に、優しくなりますよね。
それが既に立ち上がってる、この新長田のまちはやっぱりいいですよね。

前編では、文さんの目指すダンスの、表現の場についてお伺いしました。
ダンサーだけでも、観客だけでもない、関わる全ての人のことを丁寧に想う文さんがとても素敵でした。
後編では、文さん、DANCE BOXと新長田のまちの関わりをさらに深堀したいと思います。
次週もお楽しみに!
(編集:神原)
