見出し画像

推量、おもてなし。

家族4人で旅行に行った夜、私たちは夕食のために宿泊先のホテル周辺を歩いていた。当時、明日は雪の予報で、寒さに肩を窄めながら、スマホでお店と地図を検索し、なんとか定食屋に入ることができた。暖簾のかかった扉が和を感じる、小さな定食屋だった。

仕切りのあるテーブル席に座った瞬間は、慣れない土地で1日の疲れが出たのか、全員の身体の力が抜けたような空気感があった。

しばらくして店員さんに注文したところ、頼んだ料理の確認をした際に

「これは、どちらの方の注文でしょうか?」

と誰がどの品を頼んだのか、という少し珍しい確認をされた。おそらく料理を届ける際の効率を良くするためだろう。こういった、小さな気遣いやサービスって凄いなと関心しつつ、明日の予定などを話しながら料理を待った。

注文した料理が届き、ひととおり食事を楽しんだ後、食器のデザインが統一感はあるものの、細部が少しずつ違っていることに気づいた。おしゃれでいいねーと和む中、さらに自分の割り箸の入っていた袋が目に留まった。

赤色で和風の花柄がデザインされており、千代紙に似ていて華やかだった。

思わず、箸袋どんなの?と家族に聞いてしまった。集めて見比べてみると、それぞれが違う色の千代紙のような箸袋だった。白地に淡い紫色、白地に青色の線で花の模様が描かれているもの、金のラインが入った黒色……!

それは、私たちが着ていたそれぞれの服の色だった。赤色のコートの私、薄紫色のニットの母、青色のジャージの弟、ダークグレーのダウンジャケットの父。全く同じ色という訳ではないが、箸袋と服の色味が近い。

もしかすると、店員さんは、効率よく料理を届けるためではなく、この一枚の箸袋のために、誰がどの料理を頼んだのか聞いたのかもしれない。そう思うと、心が温かくなったような、胸の辺りが満たされたような感覚があって、いっぱいになって嬉しくなった。それと同時に、邪推した自分が恥ずかしくなってきた。

なにより、ひとりひとりに合わせて、箸袋をひとつひとつ選んでいるのだと考えると、この素敵なおもてなしに感謝を伝えたかった。

しかし、人見知りが働いて、これを確認するのも気が引ける。違ったらどうしよう。そもそも聞くこと自体が厄介なのでは?でも、4人分の服の色とほぼ同じ色の箸袋が偶然揃うことも難しい気がする。

勇気の足りなかった私は、結局店員さんに声をかけることができないまま、店を後にした。

ホテルまでの帰り道は、店に向かうのと同じ距離なのに、ゆっくりと時間がかかった気がする。それは、先程までいた定食屋の暖かさや、料理で心と身体が満たされたからだろう。

そして、確かな根拠はないけれど、多分とても素敵な「おもてなし」で心が温かくなったからだ。そんな推量、おもてなしなのだ。

いいなと思ったら応援しよう!