「またリバウンドした…」はあなたのせいじゃない。身体が「太っていた頃」を忘れない“セットポイント”の呪縛
【アフターGLP-1企画 第6弾】
GLP-1(痩せ薬)を使って、これまで何をやっても落ちなかった体重がスッと下がった。 「ついに、やっと痩せられた!」と歓喜したのも束の間、多くの人が次のような恐怖に直面します。
「薬をやめたら、また元に戻ってしまうのでは……?」
そして残念ながら、その不安は的中します。薬をやめると猛烈な食欲が襲ってきて、あっという間にリバウンドしてしまうケースが後を絶ちません。
「結局、自分は意志が弱いダメな人間なんだ」 そうやって自分を責めていませんか?
断言します。リバウンドはあなたの意志が弱いからでも、生活習慣がだらしないからでもありません。 理由はもっと根本的で、抗いがたい「生物学的なルール」が存在するからです。
それが、体重の「セットポイント(設定温度)理論」です。
人間の身体には「体重の設定温度」がある
エアコンを思い浮かべてみてください。 設定温度を「26℃」にしていると、窓を開けて冷たい風が入ってくれば自動的に暖房が入り、日差しで部屋が暑くなれば冷房が強くなりますよね。
実は、人間の身体にもこれと全く同じ仕組みが備わっています。 脳(視床下部)が特定の体重を「あなたの正常値」として記憶しており、無理に体重が減ると、全力で元の体重(設定温度)に戻そうとするのです。
急激に体重が落ちると、身体は「飢餓状態だ! 命の危機だ!」とパニックを起こします。 そして、食欲を爆発させるホルモン(グレリン)を出し、代謝を極限まで落とし、少しの食べ物から最大限の脂肪を蓄えようとする「超・防衛モード」に入ります。
これが、あなたが何度も経験してきた「強烈なリバウンドの正体」です。
GLP-1は「一時的に冷房を強風にしている」だけ
セマグルチドなどのGLP-1系のお薬は、この防衛モードを突破する強力な力を持っています。医学的なデータ(STEP 1試験など)でも、平均して約15%もの劇的な体重減少が報告されています。
しかし、最も重要なのは「お薬をやめた後」です。 同試験の延長データでは、薬を中止すると、たった1年で「減らした体重の約3分の2」がリバウンドしてしまったことが示されています。
これは何を意味するのでしょうか? お薬は、あなたの体の設定温度(セットポイント)を書き換えたわけではない、ということです。
例えるなら、設定温度が「80kg」になっている体に、GLP-1という強力な冷房を当てて、無理やり「60kg」に冷やしている状態。 薬をやめる(冷房を切る)と、体はすぐさま本来の設定温度である「80kg」へ戻そうとします。
なぜ、身体は「太っていた頃」を忘れないのか?
「脂肪が減ったのだから、そのままキープしてくれればいいのに」と思いますよね。 しかし、ここで厄介なのが「脂肪細胞」のしぶとさです。
太っていく過程で、私たちの体の中の「脂肪細胞の数(脂肪をため込む倉庫の数)」は増えていきます。 そして恐ろしいことに、ダイエットで痩せても、この「倉庫の数」はそう簡単には減りません。中に入っている脂肪が抜けて、倉庫がペチャンコになっただけなのです。
空っぽになった大量の倉庫は、脳に向かって「備蓄が足りない! 危険だ! 早く食べ物を入れて元に戻せ!」と強烈なSOSを送り続けます。 これが、あなたの身体が「太っていた頃」を絶対に忘れない理由です。
設定温度を書き換えるのに「5年」かかる理由
では、この呪縛から逃れることは一生できないのでしょうか? いいえ、方法はあります。ペチャンコになった倉庫(脂肪細胞)が寿命を迎え、脳が「あ、今の痩せた体重が新しい正常値なんだな」と設定温度(セットポイント)を書き換えてくれるまで、その体重を維持し続ければいいのです。
では、それにはどれくらいの期間が必要なのか。 私は日頃、外来に来られる患者さんに必ずこうお伝えしています。
「ダイエットは、最低でも『5年設計』で考えてください」
数ヶ月や1年では、身体の記憶は絶対に騙せません。過去のさまざまな研究データを見ても、ホルモン環境が再構築され、新しい体重が真の意味で定着するには、「平均して5年以上」の安定した維持期間が必要だと考えられています。
「−10kg痩せること」がゴールではありません。 「−10kg痩せた状態を、5年間維持すること」が本当のゴールなのです。
5年間の戦いを勝ち抜くための「構造的アプローチ」
しかし、強烈な食欲(リバウンドの波)に耐えながら、気合と根性だけで5年間も体重を維持するのは、ハッキリ言って不可能です。一生、高額なGLP-1に課金し続けるのも現実的ではありません。
だからこそ、意志の力に頼らない「構造的な介入(物理的なアプローチ)」が必要になります。
その最強の盾となるのが、当院でも行っている「日帰り内視鏡減量治療(ESGなど)」です。 胃カメラを使って、胃のサイズそのものを内側から縫い縮め、物理的に「食べられない・すぐにお腹がいっぱいになる構造(器)」を作ります。
お薬をやめて猛烈な食欲が襲ってきても、小さくなった胃が「これ以上は入らないよ」と物理的な防波堤になってくれます。 この「物理的な壁」に守られながら、食事改善や筋力トレーニング(基礎代謝の維持)を行い、セットポイントが書き換わるまでの「5年間」を稼ぐのです。
まとめ:リバウンドは失敗ではない
薬をやめた途端に食欲が暴走するのは、あなたが弱いからではありません。 人類が飢餓を生き抜くために獲得した、正常で優秀な生命反応です。ただ、飽食の現代においては、その優秀なシステムが仇となっているだけなのです。
身体には「体重の設定温度(セットポイント)」がある。
GLP-1は、一時的に冷房を当てている状態にすぎない。
設定温度を完全に書き換えるには、「5年間」の維持が必要。
ダイエットは、数ヶ月で結果を出す「短距離走」ではありません。 自分の身体(生物学)と根気よく交渉していく、5年がかりの「長期プロジェクト」です。
アフターGLP-1。本当のダイエットは、ここからが本番です。
東京たかはしクリニック練馬院 院長 高橋 昂大
