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【掌編小説】お皿の隅に置かれたもの

掌編小説

まだ寒さが残る三月始め、史恵は思い立って真由子に連絡をとった。そういえば半年会ってないわ、どうしているかしら。気軽に指先が動いた。

真由子は新卒で入った会社の同期。当時から気が合い、長く友情を育んできた。二人とも出産子育てで退職しているが、友情は変わらない。

真由子からはすぐ返信があり、二週間後の水曜日にお昼を一緒に摂る約束をした。
しかし、約束の前日、史恵は真由子から
「体調が良くない。別日にしたい」
との連絡を受けた。
「体調が戻ったら連絡して」
と約束の延期に同意した。けれどもひと月ふた月経っても連絡がない。

「体調どう?」
指先は軽くは動かない。史恵自身、仕事が忙しくて約束を忘れていた。しかし気がつけばふた月近く経っている。なにかあったのか、それとも私と同様に約束を忘れているのだろうか。

翌日の朝、返信があった。
「まだ体調がすぐれない。だけど話したいから今週の金曜日にどう?」
と書いてある。
史恵は小さく驚いた。このふた月、ずっと調子が悪かったのか。身体そのものも心配だが、精神的に参っていないだろか。

金曜日は小雨だった。朝のうちに確認の連絡を一本入れたところ、大丈夫と返信があった。
約束の店に行く。
いつも通り、真由子は遅れてくるはず。史恵は先に店に入り、席に座って窓から雨の景色を眺めた。

五分遅れて真由子が現れた。席に着くなり、体調を話し出す。史恵はメニュー表を広げ、
「うん、まずは決めよう。何にする?」
真由子は少し悩んだ末、まあまあボリュームのある料理を選んだ。ちゃんと食べられることに史恵は安堵し、同じものを選んだ。

真由子は十年前から体調を崩し、そのせいで働くことを諦めている。症状がひどい時はずっと家に閉じこもっている。史恵はその辛いさ中に何度か話しを聞いている。だのに真由子は病院嫌いで、民間療法にすがるのだ。
最近の史恵は、真由子の話しは聞いても治療についての会話は避けることにしている。

目の前に料理が運ばれる。ひととき近況を話し合う。史恵は新しい仕事に奮闘していることを。真由子は就職して二年目の娘の様子を。この店の料理は美味しい。多少値段は張るが、安心できる食材を使い丁寧に作られている。史恵はきれいに平らげた。真由子は皿の隅に食べずに残すものを置いている。外で加工された食材だと史恵は気づいた。

アレルギーを起こす食材は別として、真由子は食べるものへのこだわりが強い。異常だと感じるくらいに。行ける店は少なく、選ぶ料理も限られる。史恵は真由子がなんでも美味しく食べていた二十代を知っているがゆえに、最近のこだわりの激しさに内心呆れている。

民間療法に莫大な費用をかけ、食べるもののこだわりからそれにもお金がかかる。病気を理由に働かない。
「我が家はお金がないから」
と口ぐせのように言う。

若い頃の話で盛り上がる。真由子の夫のとんちんかんな言動に一緒に怒り笑い、あっという間に時間が過ぎる。

史恵は
「今日はたくさん笑ったから、きっと治るよ」
と民間療法みたいな言葉で見送った。

帰宅後、真由子から
「ずっと家から出ていなくて。久しぶりに笑った。ありがとう。毎日笑いたいよ」
とメッセージが届いた。

大人の友情は難しい。距離を間違えずに過ごせたようだと胸を撫で下ろす史恵。そして気づくのだ。さっきまでの時間に疲労困憊している自分に。

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