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七福神シリーズ|祈紙(いのりがみ)編 【寿老人と小さな工場長】

効率と便利に置き去りにされた心。再び「鉄を打つ音」を取り戻すまで。

チリーン、
チリーン、チリーン。

祈紙(いのりがみ)が、寿老人の手元に舞い降りる。

「……ふむ。自分の心をどこかに忘れてきてしまったか。人の人生は短い。苦をせずとも、楽を選べば良いものをな」

寿老人は傍らの鹿を優しく撫でながら、無言でその紙を掴み取った。

祈紙(いのりがみ)は、願いの重さをそのまま色に映す。
手元に届いた色は、錆びた鉄と夕陽が混ざり合ったような「錆御納戸(さびおなんど)」。

長年現場を支えてきた誇りと、空虚な孤独が入り混じった色だ。

(五十代 工場長 つとむさんの祈紙)

油の匂わない、清潔な孤独
俺は、巨大な倉庫が連なる隙間に立っていた。

ガジャッ、ガシャーン!
ゴゴゴォー、ピーッ!

工場を支配する無機質な機械音。
システム化され、力仕事も腰をかがめる作業もなくなった。

楽になった。
それなのに、胸の奥にある「寂しさ」と「侘しさ」は何だろう。

油まみれになることもなく、作業服も汚れず、手すら汚れていない。
ハンマーを握り、豆を作るほど鉄を打っていたあの頃が、どうしようもなく懐かしい。

時代の進化に飲み込まれ、俺は隅に追いやられたのか。
それとも、自分から外れてしまったのか。

「お父さん、好きなことして楽しめば?」
家庭の心配事も減った。
子供は自立し、妻も自分の時間を楽しんでいる。

ある日、娘が無邪気に言った。
「お父さん、もう好きなことして楽しめばいいじゃん」

その言葉が、暗い心にポッと火を灯した。
これからの、自分の道。

「人生の整理」という名の、準備を始めた。
やり残したことを片付け、工場の隙間にいた虚無感が、少しずつ晴れていく。

後ろを振り返るのをやめ、新たな方向へ進む安心感。
高い空の上では、寿老人がほわりほわりと浮きながら、つとむさんを守るように見つめている。

「後ろは気にせず、前を見るんじゃ」

世界でひとつの、俺の工場
ビリバリビリバリ、ビリビリッ!
バンバンバンバン!
ギギギギィー!

電動ドリルとノコギリがフル稼働する。
DIYで車庫をリフォームしているのは、木くずまみれのつとむさんだ。

かつての工場のような大きな機械はない。
けれど、ここには自分の手で何かを作り出す「音」がある。

すがすがしい表情で汗を拭う父を見て、娘が笑った。

「お父さん、結局会社を辞めても、ここで工場長してるじゃん!」

その声に、つとむさんの顔に本物の笑顔が戻る。

高い空の上、寿老人も満足げに目を細め、白い髭を揺らしながら消えていった。






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