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理想に届かなかったけど、たどり着いた場所があった

追いかけている理想像があった。

あれは看護師をしていたとき。
救急車のサイレンがひっきりなしに鳴り響く、そんな病院だった。

みんながみんな忙しく、あちこちギスギスしている。
そんな中でも、たおやかに仕事をする人がいた。
ふと見ると、ケアが終わってる。患者さんからも信頼されている。
さらに、
「手伝うよ!」
って言ってくれる。

私は無力感でいっぱいになった。

キャリアもほとんど変わらないのに、この差はなんなんだろう……?

みんな彼女に尊敬の念を寄せていた。
私は悔しいを通り越して、「なんで?」ばかりが頭を駆けめぐっていた。


彼女が誰よりも勝っていたのは、心のキャバシティだったと思う。
気難しくて、こだわりが強くって、攻撃的な医師も、彼女は手のひらで華麗に転がす。

「なんであんなにうまく対応できるの?」

私は聞いたことがあった。

「ご機嫌とっておけばいいのよ! あとからグチグチ言われるのイヤだし、スパって終わってもらった方がお互いラクじゃん?」


できない。
私にはできない。

相手を上機嫌にして、円滑に仕事を終わらす。
まるで、やり手No.1 営業マンだ。

キャパがまるで違う。

私はご機嫌を取るだけで、心がすり減ってしまうから。


足りないものしか見えてこなかったけど、
「彼女のようになりたい」とは思えず、私は理想を見失った。


そんなとき転機が訪れた。

受け持ちの患者さんの状態が、わずかに悪化しているのに気づいた。
だけど、担当医師は別の患者さんのカテーテル検査をしていて電話がつながらない。
検査室のNsに伝言を頼むが、バックコールが来ない。

リーダーNsに状況を伝えると、
「そんなにまずいかなぁ? 大丈夫じゃない?」


いや、そんなことない。
絶対マズイ。


このまま夜勤Nsに渡したらえらいこっちゃになる、と第六感が告げた。
だから、私は単独で動き出した。

まず、担当医師の先輩に電話をかけた。何を考えているのか分からない、苦手なタイプの医師。
私の直感を支えるデータを示し、事情を話す。
「うーん……」
と考えたあと、先輩医師は期待した以上の動きをしてくれた。

担当医師が来られるように、検査室に直接かけ合ってくれた上、点滴変更の指示も出してくれた。

担当医師が病棟にかけ込んできたときには、患者さんの状態はさらに悪化。
バタバタと夜間帯を乗り切る指示を受け、ホッとしながら処置に奔走した。

残業が大決定したとき、リーダーNsが声をかけてきた。

「1人でやらせてごめん、そんなに深刻だったなんて」


これが、よくなかった。


ひとりでがんばる成功体験を積んでしまったから。


あの日も何時間残業したのか。
次の勤務者が慌てないで済むように、そして、患者さんの最期に家族が会えるようにできる限りのことをした。

私は1人でも、不格好でも、これだけできるんだ。


そう思ってしまった私は、頼まれたわけでもないのに、1人で背負い込むようになった。

そして1人こっそりと、心が折れた。

誰にも気づかれないまま。


退職の面談のときに、上司に言った言葉が忘れられない。

「毎日、『がんばりたい』じゃなくて『がんばらなきゃ』って思っているのが辛くて……」

私の訴えはまったく理解してもらえず、
「みんなそうだよ?」
と返され、心をピシャリと閉めたものだ。

数年後、私は違う病院で働いた。
パートで時短。
だけど、あのときにはできなかった丁寧な処置ができるようになっていた。
患者さんとの関わり方も、以前とは違う感覚でできたときに、

「今、患者さんの心に、寄り添えているんじゃないかなぁ」

と、感じることがあった。

あのとき追いかけていた理想像、ではない。
かけ離れている。

だけど、これが『Ns』なんじゃないかなぁ、と自分の働きに誇りを持てた瞬間があった。

だから、若いNsさんに言いたいんです。

ひとりで抱え込むのは、無理だよ。

人の命は重すぎて。
抱えられたもんじゃない。

みんなで少しずつ分け合っていかないと、責任感強すぎマンは倒れてしまう。 

私はもう前線を退いて長い。
復帰してできる部分もあるだろうけど、てんで役に立たないこともあると思う。

人の生死を扱う現場で、責任を果たそうとする心は、本当に、尊い。

でも、あなたが輝ける場所はそこだけじゃないってことだけ、
覚えていてほしいな。

そんなふうに、アラフォー元Nsは思っているんです。

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藤澤コウ|看護師ストーリーライター 応援していただいたチップはこどもたちのみかんに変身予定です!