現役コンサルマネージャーが「地方の個人書店の生き残り戦略」について考えてみた
導入
「街の本屋さんが減っている」というニュースを見るたびに、少し寂しい気持ちになります。我々コンサルタントは、本によるInputを重要視しているため、購入元である本屋さんが減少するということは受け入れ難いものがあります。
実際、全国の書店数は2025年度末に9,993店となり、統計を取り始めて以来はじめて1万店を割りました。ピークだった1998年度が24,237店だったので、約30年で6割近く減った計算です。

一方で、面白いことに独立系の個人書店はコロナ禍以降むしろ増えています。2025年も上半期だけで52店が新規オープンしているそうです。
同じ「街の本屋」というくくりなのに、減っているところと増えているところがある。この差はどこから来るのか、現役コンサルマネージャーとして少し考えてみたいと思います。

今回は架空の「地方都市にある個人経営の書店」を題材にしていますが、実在の店舗をモデルにしたものではありません。あくまで公開データをベースにした一般的なケースとして読んでいただければと思います。
自己紹介
まずは簡単に自己紹介させてください。
私は現在国内のコンサルティングファームにマネージャーとして勤務しているKohです。
元々はBig4のコンサルティングファームに勤務していましたが、監査系ファームであることによる支援内容の制限や本社へのロイヤリティなどに疑問を持ち、日系コンサルティングファームに転職しました。
普段はクライアント企業の経営課題と向き合っていますが、このnoteでは肩の力を抜いて、身近な業界やお店を題材に「もしご相談があったら…」という空想での支援内容を考えていきます。
(趣味程度なので、品質はそこまで期待しないでください笑)
前提整理
まず考える前に、どんなお店を想定するかを決めておきます。ここを決めないと、話がぼんやりとしたまま進んでしまうので。
想定するのは、地方都市の駅前か中心市街地にある、売場30坪くらいの総合書店です。経営歴20年以上、店主は60代、家族中心で1~2名のスタッフという、いわゆる「昔ながらの街の本屋さん」をイメージしています。
個人的にはこういう本屋さんに入った瞬間に少し古い本の香りがする本屋さんは大好きで、地方へ旅行した際は必ず寄ってしまいます。
競合は大型チェーン書店、ネット通販、電子書籍、そして図書館です。
正直、ここまで条件を並べると「勝ち目がなさそう」と思う方もいるかもしれません。実際、業界全体としては厳しい状況にあるのは間違いないです。ただ、その中でも生き残っている個人書店があるのも事実なので、そこにヒントがありそうです。
現状分析
現状を整理するときは、いつも「お客さん」「競合」「自分たち」の3つの視点で見るようにしています。いわゆも3C分析というやつですが、堅く考えなくて大丈夫です。要は「誰に」「誰と戦って」「何を武器にするか」を整理するだけです。
お客さん側から見ると、読書離れと言われつつも、個性的な本屋を求める層は一定数いるようです。独立系書店は2023年に100店超、2024年も 90店超のペースで新規開業していて、こういう店を目当てに来る人が増えている印象があります。本を買うというより「本のある空間を楽しみに来る」感覚に近いのかもしれません。
競合側は、正直かなり厳しいです。全国の書店数は先ほど触れた通り初めて1万店を割りましたし、書店が1軸もない自治体は2024年11月時点で493、全体の3割近くに達しています。大型チェーンやネット通販との価格競争では、個人書店に勝ち目はほぼないと言っていいと思います。
自分たち側の弱みとしては、49坪以下の小規模書店が2003年の6,887店から2023年に3,789店と、ほぼ半減している点が象徴的です。書籍の粗利率はだいたい 20%台前半なので、本だけ売っていても正直なかなか厳しい商売です。加えて店主の高齢化・後継者不在も、他の個人商店同様によく聞く話です。
まとめると、価格競争では勝てないけれど、「体験」や「個性」を求める顧客層は確実に存在する、というのが今の状況だと思います。
課題仮説
ここからは、売上をシンプルな式に分解して考えてみます。
売上=客数×客単価×購入頻度
このうち、地方の個人書店がどこから手をつけられそうか。個人的な仮説ですが、客数を書籍だけで増やすのはかなり難しいと思っています。ネット通販や電子書籍という強力な代わりがあるので。
一方で、客単価は書籍以外の商品(雑貨・文具・カフェなど)を組み合わせれば伸ばせそうですし、購入頻度も店主とのつながりやイベントを通じて「また来たくなる」仕掛けを作れば、上げられる余地があると思います。
なので、今回の課題仮説はこうなります。
「本を売る場所」から「本をきっかけに人が集まる場所」への転換が、まだ十分にできていないのではないか。これが生き残りを難しくしている根本の課題かもしれません。
原因分析
では、なぜこの転換がなかなか進まないのか。何度か「なぜ」を繰り返して掘り下げてみます。
書籍以外の収益源を作ることに、心理的なハードルがあるのかもしれません。なぜかというと、「書店は本を売る場所だ」という業態のイメージが根強いからだと思います。
ではなぜそのイメージを崩せないのか。カフェ併設やイベント企画には、初期投資や新しいノウハウが必要になるからではないでしょうか。
さらに掘ると、店主一人で仕入れ・接客・経理をすべて回している以上、新しいことを試す余力がそもそもないというのが実情に近い気がします。小規模書店は人を増やす余裕もないので、日々の運営だけで手一杯になりやすいのです。
つまり根本の原因は、「アイデアがないこと」ではなく「試す時間と初期投資の余力がないこと」にあるのではないかと考えられます。実際、うまくいっている独立系書店の多くは、自治体や企業との連携(公設民営など)でこの余力の制約を補っているケースが目立ちます。福井県敦賀市の「ちえなみき」という公設民営書店は、来店者数が80万人を超えているそうです。行政と組むことで、個人では抱えきれない投資リスクをカバーしている好例だと思います。
改善施策
原因が「余力不足」だとすると、打ち手は「お金と時間をあまりかけずに、今ある強みを活かせるもの」から考えるのが現実的です。
客単価を上げるという意味では、雑貨や文具、地元産品を併売してみるのが取り組みやすいと思います。選書を「テーマ別」「店主のおすすめ」でまとめておくだけでも、まとめ買いにつながりやすくなります。週末だけ簡易カフェスペースを作るのも、滞在時間を収益化する一つの手です。
購入頻度を上げるなら、読書会や著者トークイベントのように「来店する理由」を定期的に作ることが効きそうです。SNSやニュースレターで店主のおすすめを日常的に発信しておくと、来店前から関係性ができている状態を作れます。常連さんには新刊の先行案内をするなど、ちょっとした特別感も効果的だと思います。
もう少し踏み込むなら、自治体や学校図書室との連携で選書サポートのような法人向けの安定収益を作る、棚の一部を貸し出すシェア型書店の仕組みを一部取り入れる、といった方法もあります。シェア型書店は2025年12月時点で全国132店舗まで増えているようで、地味に広がりを見せている業態です。
優先順位
こうして施策を並べると、「今すぐできること」と「時間がかかること」が混ざっているのが分かります。思いつき順に手を付けるのではなく、インパクトと実現しやすさで整理しておきたいところです。
お金がかからず、すぐ着手できるのはSNS・ニュースレター発信と、雑貨・地元産品の併売です。ここから始めるのが素直だと思います。
次に来るのが読書会などのイベントや、自治体・学校との連携です。効果は大きいですが、企画や調整に時間がかかる分、少し後回しでも良さそうです。
カフェ併設やシェア型書店化は、インパクトはあるものの初期投資や仕組みづくりが必要なので、最初の施策の手応えを見てから判断する、くらいの位置付けが現実的だと思います。
実行ロードマップ
最初の3ヶ月
SNS発信を始めつつ雑貨・地元産品の併売コーナーを作り、客単価の変化を見てみる期間にします。3~6ヶ月目
読書会や著者イベントを月1回くらいのペースで開催してみて、常連化の兆しが出てくるか確認します。6ヶ月目以降
自治体・学校との連携を探りながら、カフェスペースやシェア型書店化といった投資が必要な施策に踏み出すかどうかを判断していく
ここで大事なのは、最初の3ヶ月をとにかく「小さく試して、数字で確かめる」期間にすることだと思っています。仮説を検証しないまま次に進んでしまうと、結局何が効いたのか分からなくなってしまうので、細かに検証・分析を繰り返すことが重要です。
想定リスク
もちろん、いいことばかりではありません。
新しい取り組みに時間を取られて、本業である書籍販売の接客が疎かになってしまうリスクはあります。カフェ併設やシェア型書店化は初期投資がかかる分、回収に時間がかかる可能性も高いです。
ただ、本屋さんにも本を棚卸している時間や仕入れの時間以外に顧客が店内にいるときはレジで待っているという時間もあると思います。その時間を細かく活用していくことで、一定程度時間を生み出すこともできると考えています。
あと個人的に気になるのは、常連さんとの関係性が店主個人の人気に依存しすぎると、店主に何かあったときに事業自体が続けられなくなるリスクがある点です。
これらに対しては、小さく試しながら本業とのバランスを定期的に見直すこと、一部の業務を外部や地域と分担していくことが、現実的な対応策になると思います。
まとめ
地方の個人書店の生き残り戦略について考えてきました。
本をたくさん売ろうとするより先に、本屋という場所の価値を広げてみる。今回はそんな結論になりました。
書店数そのものが構造的に減っているという業界全体の逆風がある中で、根本の原因は店主が新しい取り組みを試す余力を持ちにくいという、個人経営ならではの制約にあるのではないかと思います。だからこそ、お金と時間をかけずに今の強みを活かせる施策から、順番に手をつけていくのが現実的だと考えられます。
現状分析→課題仮説→原因分析→改善施策→優先順位→ロードマップ、というこの考え方の順番は、書店に限らず地域密着型ビジネス全般に応用できるやり方だと思っています。
読者への問いかけ
もし今、自分の仕事や事業で「市場が縮小する中でどう生き残るか」という課題を抱えているなら、少し立ち止まって考えてみてほしいところです。
それは「今の商品をもっと売る」問題でしょうか。それとも、「場所や関係性の価値をどう広げるか」という問題なのでしょうか。
コンサルタントの思考というのは、特別な知識よりも「分解して、順番に考える」という習慣そのものにあると個人的には思っています。今日の記事が、その習慣を少しでも持ち帰るきっかけになればうれしいです。
参考情報
・全国の書店数、初の1万店割れ ピーク時から約6割減|日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC086460Y6A600C2000000/
・「街の書店」次々と消えていく 1軒もない自治体3割|J-CASTニュース:https://www.j-cast.com/2025/02/11501255.html?p=all
・日本の書店数|出版科学研究所オンライン:https://shuppankagaku.com/knowledge/bookstores/
・読書離れといわれる中、年間約100店増!独立系書店の現状とは|Book Bang:https://www.bookbang.jp/article/810084
・細る出版市場に挑む一人書店 本の流通改革を知る4選|日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC228TT0S5A221C2000000/
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