10年後には声優さんはAIに置き換わっているかもしれないですね。
私は声優さんが大好きですし、アニメも本当に大好きです。声優ラジオも聞いていたりするくらいには大好きです。文化放送さんありがとうございます。
今回のnoteは「生成AIがあれば声優はいらないのでは?」という話ではありません。
『劇場版モノノ怪』のプロデューサーが引退を発表しました。
声優の不倫報道を受けた降板と再起用をめぐる騒動が原因です。プロデューサーは再起用に関する事前告知をしなかったことについて「配慮が欠けていた」と認め、最終的に引退という結末を迎えました。
このニュースを見て10年後には、声優も俳優も、全部生成AIになっているかもしれないな、と思ったわけです。
これは技術の進歩だけの話ではありません。
もちろん、AI音声合成やAI映像生成の技術は急速に進化しています。
数年後には、人間の声優と区別がつかないAI音声が当たり前になるでしょうし、AIが生成した俳優の演技も実用レベルに達するかもしれません。
しかし、技術だけでは置き換えは進みません。人間の演技や声に対する「本物でなければ嫌だ」という感情が、大きな障壁として残るはずです。
私も今の価値観だとやっぱり生身の声優さんが作り上げる世界観は大好きです。
問題は、その障壁を壊しているのが、AI側ではなく人間側だということです。
今回の件を制作者の立場で考えてみます。
声優をキャスティングする。
作品に合った声質、演技力、知名度などを慎重に選んで、オーディションをして、契約をして、収録をする。
しかし、その声優がスキャンダルを起こした。
不倫、犯罪、不適切発言、ハラスメント。内容は何であれ、SNSで騒ぎになり、ファンが離れ、スポンサーが難色を示す。
降板させる。代役を探す。収録をやり直す。場合によっては公開延期になる。膨大なコストが発生する。
再起用を試みれば、今度はそのこと自体が問題になる。事前告知が必要になり、ファンへの説明が求められ、今回のようにプロデューサーが引退に追い込まれることもあるわけです。
これが、「人間を使うリスク」です。
AIには、このリスクがありません。
AIは不倫をしません。AIは犯罪を犯しません。AIは不適切な発言をしません。AIにスキャンダルは起きません。AIの過去が掘り返されることもありません。
AIの声が気に入らなければ、パラメータを調整するだけです。AIの演技が合わなければ、再生成するだけです。スキャンダルで降板させる必要もなければ、代役を探す必要もありません。
制作者にとって、AIは「作品以外の問題が発生しない」という、極めて魅力的な選択肢になりつつあると思います。
ここで重要なのは、AIが人間より演技が上手いから置き換えが起きるのではないということです。
人間を使うことのリスクが高すぎるから、「多少クオリティが落ちても、AIの方がマシ」という判断が下されることも起きると思っています。
声優や俳優といったプロフェッショナルにとっても、人前に出ること自体がリスクになっていますし、最近の声優さんは人前に出ることが求められます。舞台挨拶、リアルイベントなどフィクションと現実の境目もあいまいになっています。
身近な存在になったことで、よりこういったリスクも増えていると思います。
そして、そのリスクを生み出しているのは、AIではなく人間です。
SNSで騒ぎ、不買運動を起こし、スポンサーに圧力をかけ、制作者を引退に追い込む。この一連の行動が、「人間を使うことはリスクだ」という認識を、制作者側に植え付けているのは間違いないでしょう。
「でも、不倫をした声優が悪いのでは」。
そうかもしれません。不倫は道義的に問題のある行為です。それは認めます。
しかし、声優の仕事は「演技」であって「道徳の模範」ではありません。
役者の私生活と作品の質は本来は別の問題です。素晴らしい演技をする役者が、私生活では問題のある人間であることは、古今東西珍しくありません。
また、別に犯罪者でもありません。
にもかかわらず、私生活のスキャンダルで作品ごと影響を受けてしまいます。作品の価値は変わっていないのに、演じた人間の私生活によって、作品自体が「汚れた」かのように扱われてしまうわけです。
この構造が続く限り、制作者は「人間を使うリスク」をますます強く意識するようになります。
以前のブログで「メディアの炎上は放火だ」と書きました。
今回の件でも、同じ構造が見えます。声優のスキャンダルをメディアが報じ、SNSで騒ぎが拡大し、再起用が問題視され、プロデューサーが引退に追い込まれる。一つの火種が、メディアとSNSによって制御不能なまでに燃え広がっていく。
そして、この火に焼かれた制作者側が考えることは何か。
「次からはAIを使おう」という選択肢が浮かんでもおかしくないと思っています。
AIなら燃えない。
AIにはスキャンダルがない。
AIは引退しない。
AIの私生活を掘り返すメディアはいない。
AIに対して「道徳的に問題がある」と騒ぐSNSユーザーもいない。少なくともAIは不倫をしませんからね。
今はまだ過渡期なので「生成AIを使うことがリスク」、生成AIにアレルギーを持っている人もまだ多くいますが、10年も経てばそれもなくなります。
iPhone 8、8 Plus、iPhone Xが登場したのが2017年、9年前です。
今だいぶ街中でも見かけるようになったVTuberですが、10年前にはまだその概念が登場してすらいませんでした。
北海道新幹線が開業したり、改正公職選挙法が施行され、選挙権が18歳に引き下げられたのも10年前です。国民的アイドルのSMAPが解散したり、東京都知事に小池百合子が初当選したのも10年前です。
10年は文化を変えるのに十分な期間を持っています。
こうして、人間が人間の仕事を奪っていきます。
AIが人間より優れているから置き換わるのではありません。
人間が人間を追い込み、人間を使うことのリスクを上げ続けた結果、「人間を使わない方が安全だ」という合理的な判断が下されるようになるのかなと思います。
声優の不倫を叩いている人たちは、自分たちが声優という職業をAIに差し出していることに気づいているのでしょうか。「この声優は許せない」と叫ぶたびに、制作者は「やっぱり人間はリスクが高い」と確信を深めていく可能性があるのかなぁと切実に思っています。
声優さんだけに限りません。
エンターテインメント、ミュージシャンだってAIが歌い、俳優もAIを起用し、イラストレーターも同じ文脈で、清廉潔白を求め続ける以上こういったことは起きると思っています。
いや、エンターテインメントだけではありません。人間は失敗します。
書類手続きでミスをした人を生涯批判するような場合、「いや、人間ミスするからAIのほうがよくない?」となっていくでしょう。
AIに仕事を奪われるのではなく、人間の仕事は人間が奪う。
皮肉な話ですが、たぶんこれが現実になっていく未来は、そう遠くないと思います。
