「寝そべり洗脳」という情報操作
中国国家安全省が異例の警鐘
2026年4月28日、中国でスパイ摘発などを担う国家安全省が、公式SNSで注意喚起を行ったようです。
外部勢力が「寝そべり洗脳」 情報機関が注意喚起―中国https://t.co/dWE0k72PmT…
— 時事ドットコム(時事通信ニュース) (@jijicom) April 28, 2026
外部の敵対勢力が、ネット上で中国の若者に組織的な「寝そべり洗脳」の世論工作を仕掛けている、とのこと。
同省によれば、国外の組織が反中メディアやインフルエンサーを支援し、「寝そべりは正しい」「努力しても無駄」といった趣旨の書き込みや動画を投稿させていたといいます。
「中国の若者の思想をむしばもうとしている」と、強い警戒感を示したうえで、若者に対して的確な判断力を持つよう訴えました(このニュースによると)。
そもそも「寝そべり」とは何か
「寝そべり」、中国語で「躺平(タンピン)」とは、中国の若者の一部に見られるライフスタイルを指す言葉です。きっかけは、2021年4月17日に中国のネット掲示板「百度貼吧」に投稿された「寝そべりは正義だ」という文章と言われているようです。
これが瞬く間にSNSで拡散され、2021年の中国国内の流行語にまで定着しました。
具体的な行動指針としては、次の6つがよく挙げられるようです
不買房(家を買わない)
不買車(車を買わない)
不談恋愛(恋愛しない)
不結婚(結婚しない)
不生娃(子供を作らない)
低水平消費(消費は最小限に抑える)
自分は中国に行ったことが無いので肌感で本当かどうかはわからないですが、おおむねネット上の声もこんな感じなのでそこまで外れてはいないのかなぁと思っています。
数字で見る「寝そべり」が支持される土壌
寝そべりが単なるネットミームに終わらないのは、若者の置かれた経済状況がそれだけ厳しいからです。
中国国家統計局が発表する都市部の若年(16〜24歳)失業率は、現役学生を統計対象から外す形に算出方法を改めた後では、2025年8月に18.9%という過去最高水準を記録しました。10人のうち、ほぼ2人の若者が職に就けないという計算になります。
その後はやや改善し、2026年2月時点では学生を除いた16〜24歳の都市部失業率は16.1%まで下がったようです。
「日本は終わった」と言うのが口癖な人もいますが、失業率が低い方がいいという条件なのであれば、日本は2.7%とかなので、数字が本当ならだいぶひどいですね。
加えて、大卒者の数自体も急速に膨らんでいるとも聞きます。
日本の「就職氷河期」っでも若年層の失業率が10%なので、20%近いというのはなかなかすごいですね
「努力しても報われない」という気分が広がるだけの土壌は、十分すぎるほどあると言えると思います。
「外部勢力の洗脳」という主張の意味
国家安全省の主張は、こうした若者の悲観ムードを「外部勢力による浸透工作の結果」と位置付けるものです。
同省はSNSで、青年は国家の未来であり、反中敵対勢力による浸透工作の重点目標になっていると指摘。海外の反中メディアなどがネットを通じて「格差が固定化した階層社会では頑張っても意味がない」という後ろ向きな考え方を広めている、と主張しました。
興味深いのは、悲観論そのものが国家安全保障の問題として扱われ始めた、という点です。本来はスパイ活動の摘発を仕事とする情報機関が、ネット世論の傾向にまで口を挟むようになったのは、それだけ党指導部が経済悲観論の広がりを体制の安定にとっての脅威と捉えているからだと考えられます。
本当の工作活動なのか、国内のムードを変えたいプロパガンダなのか真意はわかりませんが、こういった情報操作は今後どんどん進んでいくと思います。
「現代のアヘン」としての情報操作
ちょっとアヘン戦闘とか言うとセンシティブかもしれ名ですが、19世紀のアヘン戦争では、清はイギリスから持ち込まれたアヘンによって国民が蝕まれ、国力を削がれていきました。物理的な麻薬が、国家を内側から無力化していった構図です。
では、現代において同じ役割を担うものは何かと考えると、それはネット上の情報操作なのではないか、という見方ができると思います。
物理的な物質ではなく、SNS上を流通する言葉や動画、ミームによって、人々の意欲や思考そのものを侵食していく。
「努力しても無駄」「頑張ったら負け」というメッセージが繰り返し届けば社会の活力を削いでいくと思います。
これが侮れないのは、当事者にとっては「自分の意思で寝そべることを選んだ」と感じてしまう事だと思います。
物理的な強制力ではなく、共感によって浸透していくため、防ぎようが難しい。しかも、もとになる悲観の種、例えば高い若年失業率や住宅価格の高騰、就職難といった現実は、外部勢力が捏造したものではなく存在しています。
情報操作で言うとtiktokのアルゴリズムでそういった動画ばかりレコメンドすることもできるでしょうし、Xだって、YouTubeだって「検索結果」をそのまま表示してくれることはありません。
こういった情報操作目的かどうかは別として何らかの指向性ははたらいてます。
そもそもtiktokが流行って可処分時間を奪っている事実があります。
この時間でもしかしたら勉強していたり、仕事をしていたのかもしれないのに、こういった無駄な時間(国力を例えばGDPとしたら)に投じている時点で一定以上の効果があります。
国家安全省の主張をそのまま受け入れる必要はありませんし、「寝そべり」現象の根本原因が外部勢力にあるとも思えません。
ただ、「敵対する国家の若者の意欲を、低コストで、長期的に削ぐ」という観点から見ると、こうした情報の流れが結果としてプロパガンダとして機能してしまう構図は、確かにあり得る話ですし、陰謀論以上でも以下でもないですが、ありうるシナリオだと思います。
軍事力や経済制裁ではなく、若者の「やる気」そのものを標的にする。
そう考えると、今回の中国国家安全省の警鐘は、対象が中国だからと突き放して眺めるのではなく、現代の情報戦のありようを考えるうえで、一つ参考になる視点なのかなぁと思います。
