積読の山から直木賞候補作を振り返る2026
直木賞の発表までの読了には間に合わなかったけれど、候補作となったことで出会えた五冊。
どれもそれぞれに心揺さぶられる感動をもらえた読書時間だった。
今回は、Xでの感想記録のまとめとともに、それぞれの作品を振り返ってみたい。

──Xでの感想記録のまとめ──
けんぐゎい #朝倉かすみ
— なな (@uminoshirabe) August 5, 2026
直木賞候補作、最後の読了本。圧巻の受賞作に震える。
誰が彼女をけんぐゎい(圏外)に生きる者と笑えるだろうか。体中に痘痕の残るふゆ。
強淫の末の妊娠さえも、悲惨と呼ぶには違う。
〜どれが当たりで、どれが外れかなんて、実際に生きてみないと分からない#読了#寝読部 pic.twitter.com/S8jQDbJc3j
見えるか保己一 #蝉谷めぐ実
— なな (@uminoshirabe) August 3, 2026
日本に残る古書や記録を編纂した『群書類従』──これはその偉業を成し遂げた全盲の国学者、塙保己一の物語。
類まれな才能の一方で、生々しい苦悩を抱えた人生は、ただの伝記ではない。
見える者、見えぬ者。見つめる先にあるものはきっと同じ道なのだ。#読了#寝読部 pic.twitter.com/EPhsNIWiYI
青天 #若林正恭
— なな (@uminoshirabe) July 23, 2026
仰向けに倒される──アメフトで最も屈辱的な状態、『青天』。
大人の本質を鋭く嗅ぎ分ける、弱小アメフト部の高校生たち。強豪に挑む彼らのプレーは、青春スポーツ小説の枠には収まらない。
大人こそ胸を抉られる熱量と痛み。
圧倒的な笑いの才と筆力に痺れる!#読了#寝読部 pic.twitter.com/S0rZ0oJcya
#台所のあるところ #原田ひ香
— なな (@uminoshirabe) July 25, 2026
台所、美味しそうなお料理──とくれば、ほんわか温かい物語を想像するけれど。
表題のTVドラマの進行を軸に描かれる連作短編が突きつけるのは、あまりにもリアルな生き辛さだ。
未来の自分のためだけに、今の自分をすり減らして生きていないだろうか。#読了#寝読部 pic.twitter.com/Tjt4LwMu5R
多類婚姻譚 #凪良ゆう
— なな (@uminoshirabe) June 6, 2026
いちばん近くにいる人ほど、時に遠く感じる。
善良さや努力とは何の関係もないところでこぼれ落ちていく愛。形骸化された世間の枠組みから外れて生きることの、なんと孤独なことか。
人生はままならない。それでも人は、自分だけの景色を探して歩いていく。#読了 #寝読部 pic.twitter.com/lvhaLVb2hh
『見えるか保己一』では、歴史の教科書でしか知らなかった江戸時代の国文学者塙保己一の人となりを知る。盲目の天才の人間味を存分に味わう物語。
盲目ゆえに、目の前で妻が自分の弟子と浮気をしていようが知る由もない。しかし、そこに嫌悪や単純な善悪を持ち込まず、それぞれの人間性に迫る描写が素晴らしいと思った。
そして若林正恭氏の『青天』。
お笑い芸人である彼の本が直木賞候補作と騒がれ、正直、名前で取り上げられたのだろうかと思ったことをお詫びしたい。
お笑いのネタを作る人の文章が面白くないわけないのだ。長編なのにスルスル読める読みやすさに加え、オードリーコンビの相棒を思わせる描写がチラリとあり、思わず噴き出す。
一直線な青春小説とはまた違った味わいで、その文才には驚きしかない。
『#台所のあるところ』は、大好きな原田ひ香さんの作品。
ほっこりした装画に騙されてはいけない。
美味しそうな料理とともにあるのは不穏さを滲ませる物語。テレビドラマが同時進行していくのがまた面白い。一粒で二度美味しい、アーモンドグリコのような連作短編なのだ。
『多類婚姻譚』は凪良ゆうさんによるさまざまな恋愛模様。
第一話からやられた!ネタバレ無しで楽しんでくださいとだけ書いておく。凪良さんの作品はまちがいなく、今の時代の空気や人々の息づかいを映す『タイムカプセル』的小説なのだ。
最後に、数ある素晴らしい直木賞候補作の中から、直木賞を受賞した朝倉かすみさんの『けんぐゎい』を。
まずは『けんぐゎい』という耳慣れない言葉は何だろうと、首をかしげる人が多いのではないだろうか。
江戸時代を舞台にしているこの小説。
なんと『けんぐゎい』は『圏外』のことなのだ。
『圏外』なんて言葉、携帯電話の電波が届かない時くらいしかお目にかからない気がする。よって、何だか時代に合わない違和感を覚えるのだけれど──
実は『圏外』という言葉、かなり古くから使われているのだ。
『日本国語大辞典』では、なんと1679年(延宝7年)の用例が初出として挙げられている。意味は今と同じく『ある範囲の外』。
さらに近代になると、夏目漱石氏の『それから』にも登場する。
『父は万事休すといふ体裁で、高木を誠吾と代助に托して、しばらく談話の圏外に出た。』
といったぐあいに。
社会の圏外に置かれた女たちのたくましい生きざまを描く『けんぐゎい』。
体中に疱瘡の痕がある主人公が、心の片隅で憎からず思っていた奉公先の主人に手篭めにされるシーンは生々しい。
奉公先の主人の禍々しい性事情や差別的な発言も苛烈を極め、読者の年齢を選ぶかもしれない。それでも爽快感のある読後感はさすがの直木賞作品だと言える。
ちなみにインパクトのある装画は、現代アーティストのfeebeeさんの作品『観察者効果 白沢 憂鬱』が使われている。

病気や災厄を防ぐ力があると考えられ、江戸時代には
「白沢」の絵を魔除けとして飾る習慣があったという。
そんな背景を知ると、より一層味わい深いかもしれない。
皆さんの直木賞候補作の推しは、どの作品だっただろうか。
