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積読の山から直木賞候補作を振り返る2026

直木賞の発表までの読了には間に合わなかったけれど、候補作となったことで出会えた五冊。
どれもそれぞれに心揺さぶられる感動をもらえた読書時間だった。

今回は、Xでの感想記録のまとめとともに、それぞれの作品を振り返ってみたい。

──Xでの感想記録のまとめ──







『見えるか保己一』では、歴史の教科書でしか知らなかった江戸時代の国文学者塙保己一の人となりを知る。盲目の天才の人間味を存分に味わう物語。
盲目ゆえに、目の前で妻が自分の弟子と浮気をしていようが知る由もない。しかし、そこに嫌悪や単純な善悪を持ち込まず、それぞれの人間性に迫る描写が素晴らしいと思った。

そして若林正恭氏『青天』。
お笑い芸人である彼の本が直木賞候補作と騒がれ、正直、名前で取り上げられたのだろうかと思ったことをお詫びしたい。
お笑いのネタを作る人の文章が面白くないわけないのだ。長編なのにスルスル読める読みやすさに加え、オードリーコンビの相棒を思わせる描写がチラリとあり、思わず噴き出す。
一直線な青春小説とはまた違った味わいで、その文才には驚きしかない。


『#台所のあるところ』は、大好きな原田ひ香さんの作品。
ほっこりした装画に騙されてはいけない。
美味しそうな料理とともにあるのは不穏さを滲ませる物語。テレビドラマが同時進行していくのがまた面白い。一粒で二度美味しい、アーモンドグリコのような連作短編なのだ。


『多類婚姻譚』凪良ゆうさんによるさまざまな恋愛模様。
第一話からやられた!ネタバレ無しで楽しんでくださいとだけ書いておく。凪良さんの作品はまちがいなく、今の時代の空気や人々の息づかいを映す『タイムカプセル』的小説なのだ。

最後に、数ある素晴らしい直木賞候補作の中から、直木賞を受賞した朝倉かすみさんの『けんぐゎい』を。
まずは『けんぐゎい』という耳慣れない言葉は何だろうと、首をかしげる人が多いのではないだろうか。
江戸時代を舞台にしているこの小説。
なんと『けんぐゎい』は『圏外』のことなのだ。

『圏外』なんて言葉、携帯電話の電波が届かない時くらいしかお目にかからない気がする。よって、何だか時代に合わない違和感を覚えるのだけれど──

実は『圏外』という言葉、かなり古くから使われているのだ。
『日本国語大辞典』では、なんと1679年(延宝7年)の用例が初出として挙げられている。意味は今と同じく『ある範囲の外』
さらに近代になると、夏目漱石氏『それから』にも登場する。

『父は万事休すといふ体裁で、高木を誠吾と代助に托して、しばらく談話の圏外に出た。』
といったぐあいに

社会の圏外に置かれた女たちのたくましい生きざまを描く『けんぐゎい』。
体中に疱瘡の痕がある主人公が、心の片隅で憎からず思っていた奉公先の主人に手篭めにされるシーンは生々しい。
奉公先の主人の禍々しい性事情や差別的な発言も苛烈を極め、読者の年齢を選ぶかもしれない。それでも爽快感のある読後感はさすがの直木賞作品だと言える。

ちなみにインパクトのある装画は、現代アーティストのfeebeeさんの作品『観察者効果 白沢 憂鬱』が使われている。

「白沢(はくたく)」は、中国の古代伝説に登場する神獣。
病気や災厄を防ぐ力があると考えられ、江戸時代には
「白沢」の絵を魔除けとして飾る習慣があったという。
そんな背景を知ると、より一層味わい深いかもしれない。



皆さんの直木賞候補作の推しは、どの作品だっただろうか。

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