見出し画像

【朝礼のない朝に】ハンバーグのソース頂上決定戦

ハンバーグを注文するとき、誰もが一度は悩んだことがあると思います。



「ソースどうしようか」


どれを選んでも、きっと美味しいです。

だからこそ、決められない。

メニューを開いてから、店員さんが注文を取りに来るまでの数分間。

私たちはハンバーグを選んでいるようで、実際にはソースの未来を背負っています。


そこで今回は、長年にわたってハンバーグ界を二分、三分、

場合によっては四分してきたソースたちを一堂に集め、

正式なトーナメントを開催することにしました(?)


題して、

第1回ハンバーグソース頂上決定戦。


審査基準は、味、ご飯との相性、ハンバーグを引き立てる力、そして私が食べたいかどうか。

最後の項目が、審査結果の大部分を左右します。

それでは、選手入場です。



出場選手紹介


エントリーNo.1 デミグラスソース

まず登場したのは、ハンバーグソース界の絶対王者。

デミグラスソースです。

深いコク。

濃厚なうま味。

鉄板の上でぐつぐつと音を立てる、その圧倒的な存在感。

洋食店のメニューでハンバーグの宣材写真には、高確率でこのソースがかかっています。。

実績、知名度、風格。

どれを取っても優勝候補。

本人もすでに勝ったような顔をしています。

まだ試合は始まっていません。


エントリーNo.2 トマトソース

続いては、赤い情熱をまとった華やかな選手。

トマトソースです。

爽やかな酸味と、煮込まれたトマトの甘み。

チーズとの連携も得意で、バジルまで引き連れてきます。

見た目の鮮やかさは、今大会でもトップクラス。

ハンバーグを一瞬でおしゃれな料理へ変える力を持っています。

家庭でつくるハンバーグにも、ケチャップという廉価版を提供し

幅広い層から支持を集めています。


エントリーNo.3 和風おろしソース

続いて入場してきたのは、さっぱり界の技巧派。

和風おろしソースです。

大根おろし。

ポン酢。

大葉。

この布陣を見るだけで、観客席から、

「今日は軽く食べられそう」

という声が上がります。

ハンバーグを食べているにもかかわらず、なぜか健康的な選択をした気分にさせる、不思議な能力を持っています。

食後の罪悪感を軽くするという点では、ほかの選手にない大きな強みがあります。


エントリーNo.4 てりやきソース

最後に登場したのは、ご飯との連携に絶対的な自信を持つ甘辛の刺客。

てりやきソースです。

しょうゆの香ばしさ。

砂糖やみりんの甘み。

照り輝く表面。

バーガーとのタイアップで、実績を積み上げてきた経歴もあり

子どもから大人まで幅広い支持を集めています。

マヨネーズという強力なタッグパートナーを投入してくる可能性もあり、対戦相手は警戒が必要です。


以上、4つのソースが出そろいました。

組み合わせ抽選の結果、準決勝の対戦カードはこちらです。

第1試合 デミグラスソース対トマトソース。

第2試合 和風おろしソース対てりやきソース。


それでは、試合開始です。


準決勝第1試合

デミグラスソース対トマトソース

さあ、始まりました。

デミグラスソース対トマトソース。

洋食界の重鎮と、新進気鋭の赤き風雲児の激突です。

試合開始と同時に、デミグラスが濃厚なコクで中央を取りにいきます。

強い。

開始早々、強い。

ひと口目から、

「これぞ洋食店のハンバーグ」

という完成された世界観を展開しています。

対するトマトソースは、酸味を利かせて軽やかに応戦。

重厚なデミグラスに対し、食べやすさと爽やかさで勝負します。


ここでトマト、チーズを投入しました。

これは強力です。

ハンバーグの上でチーズがとろけています。

会場の女性客から歓声が上がりました。

写真を撮る人も続出しています。

しかしデミグラス、まったく動じません。

「チーズがなければ戦えないのか」

と言わんばかりに、単独で圧倒的なコクを見せつけます。

トマトも負けていません。

酸味で口の中を整え、次のひと口へとつなげていきます。


おっと、ここでデミグラスが何かを言っているようです。

「このあと、パスタの試合もあるんだろ?」

トマトの動きが止まりました。

デミグラスは続けます。

「ピザにも呼ばれているらしいな」

トマトの赤みが、わずかに増したように見えます。

「煮込み料理にも出る。オムライスにも乗る。ずいぶん忙しいじゃないか」


これは明らかな挑発です。

デミグラスは、トマトが複数競技を掛け持ちしていることを執拗に突いていきます。

対するトマトは、

「活躍の場が広いのは、実力がある証拠だ」

と反論。

もっともです。

しかし、デミグラスは鼻で笑います。

「つまり、ハンバーグでなくてもいいんだな」

会場がどよめきます。

痛いところを突きました。

トマトソースは万能です。

パスタでも輝く。

ピザでも輝く。

煮込み料理でも輝く。

ところが、それを意識した瞬間から、動きがおかしくなりました。

自分はハンバーグのソースなのか。

パスタのソースなのか。

ピザのソースなのか。

いったい、何者なのか。

トマトが自分探しを始めています。

試合中です。

ここで始めることではありません。


動揺したトマトは、酸味の加減を誤りました。

少し強い。

さらに焦ってチーズを追加します。

多い。

チーズが多い。

もはやハンバーグより、チーズとトマトの主張が前へ出ています。

対するデミグラスは、ここぞとばかりに王道のコクで中央を制圧

肉汁と一体になり、ハンバーグそのものを主役へ押し戻します。

トマトが自分の可能性を広げすぎた一方で、デミグラスは最後まで、自分の仕事を見失いませんでした。

ハンバーグを、ハンバーグらしくおいしくする。

ただ、それだけです。

試合終了。


トマト選手は最後まで華やかでした。

しかし、デミグラスの挑発によって自分の立ち位置を見失い、まさかの自滅。

勝者、デミグラスソース。

トマト選手は試合後、

「少し、自分と向き合う時間が欲しい」

と言い残し、パスタ会場へ向かいました。



準決勝第2試合

和風おろしソース対てりやきソース


続いて第2試合。

和風おろしソース対てりやきソース。

さっぱりと甘辛。

静と動。

まったく異なる個性を持つ両者の対戦です。

試合開始。


まずは和風おろしが、大根おろしとポン酢による軽快な立ち上がりを見せます。

ひと口食べても重くない。

もうひと口食べても重くない。

ハンバーグを食べているのに、なぜか体に良いことをしているような感覚があります。


これは見事な心理戦です。

一方、てりやきは序盤から一切遠慮がありません。

やみつきの甘さで、食べる人を虜にします。

とにかくご飯が進む。

パンにはさんでもいい。

非常に分かりやすい攻撃です。

難しいことは何もしていません。

ただ、人間が本能的に好きな味を正面からぶつけています

ここで、てりやきが連続攻撃。

てりやきハンバーグ。

ご飯。

てりやきハンバーグ。

バンズ。

もはや、とどまることを知りません。

果てしない闇の向こうに、オッオーです。


しかし和風おろしも、すかさず大葉を投入。

香りが一気に立ち上がりました。

これは爽やかです。

さらに大根おろしが、てりやきの甘さで疲れた口の中をきれいに整えていきます。

対照的な戦いです。

てりやきは、ご飯を進ませる。

和風おろしは、ハンバーグそのものをもうひと口食べさせる。


てりやきは攻める。

和風おろしは受け流す。

ここで、てりやき陣営がマヨネーズを用意しているとの情報が入りました。

それは反則ではないのでしょうか。

甘辛いソースに、まろやかなコクが加わります。

強い。

これは強い。

子どもから大人まで、一気に支持を広げていきます。


和風おろしにとっては、かなり苦しい展開です。


しかし、てりやきは勢いに乗りすぎました。

ハンバーグをひと口。

ご飯をふた口。

マヨネーズを追加。

また、ご飯。

いつの間にか、攻撃の中心が白ご飯へ移っています。


実況席にも疑問が浮かびます。

てりやき選手、いま何の大会に出ているのでしょうか


対する和風おろしは、慌てません。

大根おろしで肉汁を受け止め、ポン酢の酸味で口の中を整えます

ひと口目も、ハンバーグ。

ふた口目も、ハンバーグ。

最後まで、主役から目を離しません。

てりやきが白ご飯との名勝負を繰り広げている間に、和風おろしは淡々とハンバーグのうま味を引き出していきます。


ここで、てりやきがようやく異変に気づきました。

「待て。これは、ご飯選手権ではないのか」

違います。

最初から、ハンバーグソース頂上決定戦です。

慌ててハンバーグへ戻ろうとしますが、遅い。

口の中は、甘辛さとマヨネーズでかなり仕上がっています

一方の和風おろしは、大葉の香りを加え、最後まで軽やかに食べ切りました。

試合終了。


ご飯との相性では、てりやきが圧倒。

親しみやすさでも、てりやき。

しかし、ハンバーグを最後まで主役として戦わせたのは、和風おろしでした。

勝者、和風おろしソース。

決勝進出です。

敗れたてりやき選手は、試合後も納得していません。

「白ご飯部門なら、私の勝ちだった」

そんな部門は、最初からありません。


決勝戦

デミグラスソース対和風おろしソース

ついに決勝です。

絶対王者デミグラスソース。

対するは、さっぱり技巧派の和風おろしソース。


濃厚か。

軽やかか。


洋食か。

和食か。


ソース界が長年抱えてきた大問題に、今ここで答えが出ようとしています。


試合開始。

デミグラスが、いきなり全力です。

深いコク。

肉汁との一体感。

ハンバーグを洋食店の主役へ押し上げる圧倒的な力。

やはり強い。

この大会に向けて仕上げてきています。

対する和風おろしは、焦りません。

大根おろしをハンバーグの上へ静かに乗せ、ポン酢を流し込みます。

派手さはありません。

しかし、箸が止まりません。

デミグラスをひと口。

おいしい。

和風おろしをひと口。

これもおいしい。

もう一度デミグラス。

やはり濃厚。

もう一度和風おろし。

やはり軽い。

完全な一進一退です。

デミグラスは一口ごとの満足感で押します。

和風おろしは、最後まで食べ続けられる持久力で対抗します。

ここでデミグラスが、マッシュポテトとの連携を見せました。

強い。

ハンバーグ、デミグラス、マッシュポテト。

洋食の三位一体です。

対する和風おろしは、大葉と刻みねぎで応戦。

さらにご飯にも合うことをアピールします。


会場の判定が割れています。

デミグラス派は、

「ハンバーグなら王道を食べたい」

と主張。

和風おろし派は、

「最後までおいしく食べられる方が強い」

と反論しています

どちらも正しい。

どちらも譲らない。

そして試合終了。


厳正な審査の結果、初代ハンバーグソース王者に選ばれたのは――

デミグラスソースです。


やはり王道は強かった。

ハンバーグを見た瞬間の高揚感。

肉汁との相性。

洋食としての完成度。

すべてを高い水準でまとめ上げ、見事に初代王者の座へ輝きました。


会場から大きな拍手が送られています。

デミグラスソースが、誇らしげに優勝トロフィーを掲げました。

長い戦いでした。


これで、ハンバーグソース界の頂点が決まった

誰もがそう思った、そのときでした



会場の照明が落ちます。

突然、入場口から低い音楽が流れ始めました。

観客席がざわついています。

いったい、何が起きたのでしょうか。

暗闇の中、スクリーンに文字が浮かび上がります。


挑戦者、現る。

謎の挑戦者、ジャポネソース



入場口から、ひとつのソースがゆっくりと姿を現しました。

しょうゆをベースに、玉ねぎとにんにくの香りをまとった未知の存在。

その名は、

ジャポネソース。


なぜ今。

エントリー受付は終了しています。

トーナメント表にも名前はありません。

そもそも、先ほど初代王者が決まったばかりです。


しかしジャポネは、そんなことを気にする様子もなく、まっすぐ王者デミグラスの前へ進みます。

そして、ひと言。

「そのベルト、私がもらいます」


会場が騒然としています。

大会運営も混乱しています。

審判団が急いで協議に入りました。

本来なら、当然認められません。

大会規定に、決勝戦終了後の乱入者と追加試合を行うという項目はありません。

しかし、なぜか試合の開催が決定しました。

理由は、

「なんとなく盛り上がりそうだから」

です。

大会の信頼性が、一気に失われました。


真の王者決定戦

デミグラスソース対ジャポネソース

まさかの延長戦。

初代王者デミグラスソース対、謎の挑戦者ジャポネソース。

試合開始です。

デミグラスは、先ほどまでのトーナメントで消耗しています。

トマトを倒し、和風おろしを倒し、ようやく王者になった直後。

対するジャポネは無傷です。

非常に不公平です。


しかしジャポネ、試合開始と同時に玉ねぎの甘みで攻め込みます。

しょうゆの香ばしさ。

にんにくのうま味。

重すぎないのに、しっかりとした味

これは強い。

デミグラスが得意とするコクの勝負に、真正面から入っていきます。

ただし、ジャポネはデミグラスほど重くありません。

ご飯に合う。

ハンバーグにも合う。

玉ねぎまでおいしい。

気づけば、鉄板に残ったソースをハンバーグで集めています


デミグラスも王者の意地を見せます。

濃厚なうま味で押し返す。

しかし、ジャポネは軽やかに受け流します。

デミグラスの重厚感。

和風おろしの食べやすさ。

てりやきのご飯との相性。

それぞれの長所を、少しずつ持っているような万能型です。

圧倒的強さ。


ここでジャポネが、すりおろし玉ねぎの連続攻撃。

デミグラスの動きが止まりました。

さらに、にんにくの香り。

白ご飯が自ら茶碗から前へ出ようとしています。

危険です。

炊飯器の緊張が伝わります。

そして最後は、鉄板に残った玉ねぎを集め、ご飯に少しだけ乗せる必殺技。

ジャポネ・オン・ザ・ライス。

決まった。

デミグラス、立ち上がれません。

試合終了です


勝者、ジャポネソース。



こうして、第1回ハンバーグソース頂上決定戦は、正式エントリーしていなかったジャポネソースの優勝で幕を閉じました

トーナメントとは何だったのでしょうか

デミグラス、トマト、和風おろし、てりやきが正々堂々と戦った時間は、何だったのでしょうか。

分かりません。


ただ、ひとつだけ確かなことがあります。

私はジャポネソースが好きです

しょうゆベースの香ばしい味。

玉ねぎの甘み。

にんにくのうま味。

しっかり味なのに重すぎず、ハンバーグにもご飯にも合う。

メニューにジャポネソースという文字を見つけると、ほかの候補を一度すべて忘れます。

デミグラスも好きです。

和風おろしも好きです。

トマトも、てりやきも、おいしいと思います。

それでも最後に選ぶのは、ジャポネです。


第1回ハンバーグソース頂上決定戦。

真のチャンピオンは、ジャポネソース

なお、異論は認めます。

ただし、再試合を行った場合も、最後にジャポネが乱入します


朝倉こはる。


いいなと思ったら応援しよう!