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登別カルルスの話。

温泉が好きだ。と言っても忙しい社会人、そうそう遠くの温泉に行くことなどできない。秘境温泉というものもある。私もいつか行ってみたい。どうせなら雪の中、露天風呂がいいだろう。

だが、いざ行こうとネットで調べると自宅からの距離に愕然とする。新幹線の最寄駅ないしは空港から車で数時間。しかも雪道。行ったはいいが帰ってこれないリスクが高いので、渋々諦めざるを得ない。

しかし、そんな私の心を癒してくれるものがある。それが「日本の名湯」シリーズだ。

生まれはほぼ私と同じ。家庭でも簡単に温泉気分が味わえることで大ヒットを記録した。

私の実家ではお風呂のお供といえば「バブ」か「日本の名湯」だったが、私はとにかく日本の名湯の「登別カルルス」が大好きだった。

登別カルルス。
まず、響きがいい。
説明文から北海道なのは分かるのだが、登別が北海道のどこに位置しているのか分からない。
そしてカルルス。
カルデラ湖のようなイメージだろうか。
目を閉じる。雪原を抜け、長い山道を越えた先、コバルトブルーのカルルスが見えてくる。空はどこまでも青く、空気は澄み渡る。その空のインクを落としたような湖に私の瞳は吸い寄せられる。

カルルスの麓に到着した。眼前にはゴツゴツした岩山と白く湧き立つ湯気が見える。

堅い岩山の感触を足で確かめながら、少しずつ登っていく。うっかり落ちないようグローブで岩を掴む手に思わず力が入る。

最後の一段を越えた時、眼下に広がるカルデラ湖。あまりの美しさに息を呑む。そして、探す。ゆらゆらと立ち昇るあの湯気の場所を。

カルデラ湖のすぐ脇に木の立て看板が見える。私は慎重に斜面を滑り降りて、温泉に近づいた。立て看板は古い。長い年月をそこで過ごしたのだろう。木はところどころ欠けていて、文字はぼやけてよく見えない。円状に配置された岩の中に乳白色の温泉が湧いている。付近には誰もいない。私はおもむろに服を脱ぎ、妄想の世界に浸りながら我が家の風呂に温泉の素を溶かし込む。

真っ白なお湯。
そして袋の説明文を読む。

山々と海に囲まれた静寂な谷の里
日本一のオゾン地帯・オロフレ峠の原生林から漂う、澄み切った大気の香り。
北の山々の白雪とヌプルベツを想わせる乳白色の湯。

再び目を閉じる。どこまでも柔らかい泉質。遠い昔、アイヌの方々もここで傷を癒したに違いない。白樺の原生林から虫の息吹や鳥の鳴き声がチチチと聞こえてくる。

ふと見上げる。あれはトンビだろうか。ヒョロロロロという鳴き声で私を呼んでいる。
目を戻すと、温泉の縁石に隠れるように猿がいた。親子のようだ。母猿の方は傷ついている。その傷口を小猿は心配そうに舐めている。
人間の世界と動物の世界は違う。決して相容れてはならない。
なのに、なぜだろう。私が人間に生まれたから、この子らが猿として生まれたから、そんなことでこの感情を殺さなくてはならないのか。
涙は乳白色の湯に溶ける。猿がこちらに気づいた。何かを言いたそうに見えるのは私の心が写した鏡なのか。
いや、今は考えるのはよそう。そうやって目を開ける。

私はこうして毎日温泉旅行を楽しんでいる。日本の名湯シリーズには登別カルルスだけでなく、桃色の紀州竜神や黒川温泉などもある。

どれも名前を聞いただけで行ったことはない。行ってみたい。日本の名湯はそんな私の願いを叶えてくれる。

我が家ではその日の入浴剤は娘が決める。
今日は何の温泉か。彼女のチョイスはいつも気まぐれだ。だが、どんな温泉も私を夢の世界に飛ばしてくれる。そして今日も風呂の中で夢を見る。

ちなみに今一番行ってみたいのは秋田の乳頭温泉。変な意味では決してない。決して、ない。


#なんのはなしですか
#なにがいいたいのですか
#だからどうしたのですか
#ペラペラエッセイ

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