セッション定番曲その235:'Round Midnight by Thelonious Monk
ジャズセッションの定番曲。頻繁にコールされる曲ではないですが、無国籍的な不思議なメロディのバラード曲で、名演/名唱が沢山あります。
(歌詞は最下段に掲載)
和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。
ポイント1:Thelonious Monk
1940年頃にMonkが書いて、Dizzy Gillespieなどがアレンジして、その後に本人がようやく録音した曲。大スタンダード曲になりました。Monkの曲ってとにかくクセが強いというイメージですが、この曲や「A Night in Tunisia」などメロディそのものが魅力的でそこに不思議なハーモニーが絡む、印象的な曲が多いです。どこか「演歌っぽさ」を感じるのは私だけ?
ポイント2:Miles Davis
1956年録音、この曲で一番有名なバージョンかもしれません。私はこれがこの曲との出会いでした。まさに真夜中を感じさせるクールな演奏、そこからの熱い展開。この頃のJohn Coltraneの手探りっぽい演奏もスリルがあります。
ポイント3:Amy Winehouse
2003年録音、ダンス音楽にアレンジされています。ジャズボーカル復興に寄与すると期待されていた彼女ですが、あっさりこの世を去ってしまいました。こういうアレンジは賛否両論ありますが、単なる思い付きではなく、ダブやエレクトロミュージックまでを視野に入れたチャレンジだったと思います。そこに素材になり得るMonkの音楽の凄さ。
ポイント4:歌詞のポイント
「'Round Midnight」は曲があって、その後に歌詞が付いたのでタイトルのイメージに合わせた物語になっています。
It begins to tell, 'round midnight, midnight
I do pretty well, till after sundown
Suppertime I'm feelin' sad
But it really gets bad, 'round midnight
主人公は、夕方くらいまでは元気だったんですが、夕食を経て夜が更けるていくと段々落ち込んでしまったようです。今は最悪の夜中。
「It begins to tell」は抽象的な表現ですが「(過去に起こった何がが)じわじわと効いてくる」というニュアンスだと思います。運動した後の筋肉痛だったり、辛い経験をした後の心の痛みだったり。
Memories always start 'round midnight
Haven't got the heart to stand those memories
When my heart is still with you
And ol' midnight knows it, too
落ち込みの原因はやはり恋愛関係のもつれだったようです。この時点では「失恋」?という雰囲気ですが、主人公はまだ相手に気持ちがあるようです。
「stand」は「我慢する、耐える」で「思い出すと辛くなる、忘れることがまだ出来ない」と。
「ol'」は「old」ですが「昔の」というよりは「お馴染みの」という感じ。つまり「真夜中の時間は私の気持ちをよく知ってくれている」と。
When a quarrel we had needs mending
Does it mean that our love is ending
Darlin' I need you, lately I find
You're out of my arms, And I'm out of my mind
ちょっとした口喧嘩をしたぐらいで、ちゃんと謝って和解しなくちゃならないのなら、それは愛の終わりが近い、信頼関係が薄れた状態かもしれません。
「I'm out of my mind」は「正気を失っている、気が狂いそうだ」という意味。その直前の「You're out of my arms」との対比で「be out of」を上手く使った表現ですね。
Let our hearts take wings, 'round midnight, midnight
Let the angels sing, For your returning
Till our love is safe and sound
And old midnight comes around
ここで「wings」「angels」といきなり詩的表現になります。相手の気持ちを取り戻す為に神頼み。「Let…」は何か見えないものにお願い事をする時に使う表現。
「safe and sound」は「無事に、つつがなく」という決まり文句。ここでの「sound」は「音」ではなく「安定した、健全な」という形容詞。
最後は真夜中が訪れるのが怖くなくなるように願っています。
物語としては、完全な失恋ではなく、まだ復縁の可能性・希望があるという主人公の心情が歌われています。真夜中なので声高ではなくしっとりと。これを前半の嘆きの気持ちを強調して歌うか、終盤の希望を強調して歌うのか、で表現が変わってきますね。
ポイント5:曲の構成
AABAそれぞれ16小節ずつのスタンダードな構成。かなり上下動のある複雑なメロディです。出だしの半音下降のところがMonkっぽいですよね。

年代順にコード進行(解釈)がどう変わっていったかを詳しくまとめておられる記事がありました。
ポイント6:様々な演奏のバリュエーション
Sonny Rollins、1964年録音
彼の太く明快なサックスの音色はこの曲に少しミスマッチかもしれません。ピアノはHerbie Hancock。
Stan Getz、1960年録音
ストリングスが妖しい雰囲気を醸し出しています。
Joe Pass、1974年
ソロギター演奏の頂点。
ポイント7:様々な歌唱のバリュエーション
Julie London、1960年録音
クールな色気のある歌唱。このクセのある曲に「色気」を吹き込むのが彼女の真骨頂。真夜中の雰囲気がありますね。
Ella Fitzgerald、1961年録音
随所に独自のフェイクを入れながらの歌唱。Monkならではの無国籍感を表現しているのは流石ですね。
Mel Tormé、1958年録音
滑らかな声、正確なピッチ、歌でリズム/グルーヴを引っ張る歌唱。男性ボーカリストがバラードを歌う際のお手本。
Karrin Allyson、2011年録音
冷んやりとした感触の歌唱、ベースとのデュオです。カッコいい。
Chaka Khan、2011年録音
随所に力強さを感じさせる独自の歌唱スタイル。ジャズボーカルではないが、こういう黒っぽいアプローチもアリ。
Andy Summers, Sting、2005年録音
「確かStingも歌っていたよな」と思って探したらこれでした。まさにこの曲にぴったりの声質。
Samara Joy、2022年録音
独自の歌詞で歯切れよく歌っています。
Kenny Rankin、2022年録音
◼️歌詞
It begins to tell, 'round midnight, midnight
I do pretty well, till after sundown
Suppertime I'm feelin' sad
But it really gets bad, 'round midnight
Memories always start 'round midnight
Haven't got the heart to stand those memories
When my heart is still with you
And ol' midnight knows it, too
When a quarrel we had needs mending
Does it mean that our love is ending
Darlin' I need you, lately I find
You're out of my arms, And I'm out of my mind
Let our hearts take wings, 'round midnight, midnight
Let the angels sing, For your returning
Till our love is safe and sound
And old midnight comes around
