セッション定番曲その189:Old Devil Moon
ジャズセッションの定番曲。よくある「ラテンビート〜スイング(4ビート)」の行ったり来たりのアレンジでも演奏されます。1947年初演の「フィニアンの虹」というミュージカル内の曲。
(歌詞は最下段に掲載)
和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。
ポイント1:Chet Baker
1958年録音。Chet Bakerの淡白な歌声でこのリズミカルな歌詞が歌われるとサラッとした印象ですね。「ラテン〜スイング」の行ったり来たりのアレンジ。
ポイント2:Anita O'Day with The Oscar Peterson Quartet
1957年録音。Anita O'Dayのちょっと蓮っ葉な歌い方が意外とこの曲にハマっています。リズムの掴まえ方が抜群。基本的には男性目線の歌詞だと思うので、女性が歌う場合にはより色気を出す必要がありそうです。
ポイント3:Miles Davis
1954年録音。こういうスタンダード曲を真面目に吹くマイルスはやっぱりいいですね。自我が強くなり過ぎる以前の演奏は素直に聴けますね。
ポイント4:Old Devil Moon
「月」のイメージは世界中でそれぞれ異なります。日本ではかぐや姫の故郷だったり神秘的な場所だと思われ、憧れの気持ちもあります。英語圏ではどうも「魔力」をイメージするようで、人を惑わしたり混乱させる象徴。
それに「Old」と「Devil」がついてさらに強調されています。歌詞の中では女性の瞳の中にOld Devil Moonが輝いているという使われ方をしていて、その女性の魔性の魅力を表現しています。後の有名曲に「Black Magic Woman」というのがありますが、そんな香りがしますね。
ポイント5:歌詞のポイント
I look at you and suddenly
Something in your eyes I see
Soon begins bewitching me
It's that old devil moon
That you stole from the skies
It's that old devil moon in your eyes
「君の瞳の中にOld Devil Moonを見つけたんだ」「君はそれを夜空から盗んだんだろう」「僕は魔法に掛けられたように君に魅入られたんだよ」といきなり口説き文句から始まります。魔法に掛けられたと言っている割には冷静に状況を描写していて、詩的な表現を使っています。この男、実は常習犯でいつも同じような口説き文句を使っているのかも。
微妙ですが「skies」と「eyes」で韻を踏んでいるようです。
You and you glance make this romance
Too hot to handle
Stars in the night
Blazing their light
Can't hold a candle
To your razzle-dazzle
口説き文句は続きます。描写としては少しネタ切れなのか、凝った表現というよりはリズミカルなフレーズを重ねることでノリを出している感じ。
「Too hot to handle」は「厄介で自分の手には負えない」という常套句。
「Can't hold a candle to」は「〜に対して取るに足らない」という常套句。
https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/can-t-hold-a-candle-to
「razzle-dazzle」は「(相手を驚かせる為に)巧妙に仕組んだ仕掛け」みたいな感じ。この言葉自体がリズミカルですね。
ここでは「night」と「light」、「candle」と「dazzle」でかなり露骨に韻を踏んでいます。
You've got me flyin' high and wide
On a magic carpet ride
Full of butterflies inside
Wanna cry, wanna croon
Wanna laugh like a loon
It's that old devil moon in your eyes
ここでは一転して自分の気持ちを訴えています。
「butterflies」は「不安でドキドキする」象徴として使われます。
「croon」は「少し低音を響かせて優しく歌う」こと。
「laugh like a loon」は「馬鹿笑いする」こと。「loon」は阿比という鳥で、水中に潜って魚を獲るようで、その様子がけたたましいのかもしれません。
ドキドキしている割には言葉遊びが沢山入っていますね。
ここも「wide」と「ride」「inside」、「croon」と「loon」で韻を踏んでいます。
Just when I think
I'm free as a dove
Old devil moon
Deep in your eyes
Blinds me with love
「僕は自由に生きていると思い込んでいたら、君の瞳に捕えられてしまって、もう他の女の子なんて見えないよ」と最後まで口説き文句を続けています。
「free as a dove」は「鳩のように自由」だと。鳩は「精霊」のシンボルとして使われます(聖書の影響)が、ここでは単に「free as a bird」の言い換えかもしれません。発音要注意。
https://dictionary.cambridge.org/ja/pronunciation/english/dove
という訳で、何か深い意味がある歌詞ではないですが、洒落た言葉遊びが散りばめられた面白い歌詞だと思います。力関係として主人公の男性と相手の女性のどちらに主導権があるのか、そんなことを考えながら歌うと面白いと思います。恋は騙し合い。
ポイント6:様々なバリュエーションを聴いてみよう
Jamie Cullum、2003年録音
面白いリズムアレンジになっています。ロックやヒップホップなどを経由してジャズに辿り着いたJamie Cullumは自由なスタンスでジャズピアノ/ボーカルに取り組んでいて、英国で人気があります。
Mel Tormé、1960年録音
緩急自在なアレンジで歌うMel Tormé。男性ジャズボーカルのお洒落さの頂点ですね。
Nancy Sinatra、1996年録音
魔性の女の雰囲気のあるNancy Sinatraが、男性に向けて誘惑するように歌っています。
Ahmad Jamal、1963年録音
Sonny Rollins、1957年ライブ録音
Bobby Broom、2001年録音
バリトンサックスとオルガンが妖しい雰囲気を醸し出しています。
◼️歌詞
I look at you and suddenly
Something in your eyes I see
Soon begins bewitching me
It's that old devil moon
That you stole from the skies
It's that old devil moon in your eyes
You and you glance make this romance
Too hot to handle
Stars in the night
Blazing their light
Can't hold a candle
To your razzle-dazzle
You've got me flyin' high and wide
On a magic carpet ride
Full of butterflies inside
Wanna cry, wanna croon
Wanna laugh like a loon
It's that old devil moon in your eyes
Just when I think
I'm free as a dove
Old devil moon
Deep in your eyes
Blinds me with love
