セッション定番曲その245:If I Should Lose You
ジャズセッションの定番曲。1936年に映画音楽として書かれた曲がスタンダード化しました。短い曲ですが、歌詞の解釈によって色々と表現することが出来ます。バラードでもスイングでも。
(歌詞は最下段に掲載)
和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。
ポイント1:June Christy
1947年録音、古いスタイルのジャズボーカル。ストレートに歌詞を歌い上げています。抜群の安定感。彼女はAnita O'Dayと入れ替わりでStan Kentonのビッグバンドの座付き歌手になった人。清楚なルックスに反して(?)酒豪だったらしく、歌手としての寿命は短かった人でした。
ポイント2:Hank Mobley
1960年録音。この直後に既にモードジャズに傾倒していたマイルスのバンドに加入して「フィットしていない」と批判されてしまったHank Mobleyですが、彼の本領はこの曲のようにまろやかに豪快に吹きまくるプレイ。Wynton Kelly(ピアノ)やPaul Chambers(ベース)とは既にここでも共演しており、マイルスのところでの戸惑いはマイルスの説明不足が原因かと思います。
ポイント3:歌詞のポイント
If I should lose you
The stars would fall from the sky
If I should lose you
Leaves would wither and die
「If I should lose you」を「もしあなたを失わなければならないとしたら」と訳している人もいますが、「If x should, y would..」は「仮定法(未来)」で単に「もしxならば、yということになるだろう」というニュアンス。誰かに強制されて別れる訳ではありません。
もしあなたが私のもとを去ってしまったら
夜空に輝く星たちは落ちてしまうし
木々の葉は萎れて枯れてしまうだろう
そんな悲劇は考えられない、と。関係ない人たちにとってはとんでもなく迷惑な話ですね。詩的な表現とも言えるし、陳腐な紋切り型の表現とも言える。
「sky」と「die」で強引に韻を踏んでいます。
「wither」は聞き慣れない言葉ですが「(植物が)萎れる、枯れる)」という意味で、発音は「wíðər」。
The birds in May-time
they'd sing a mournful refrain
And I would wander around
hating the sound of rain
(もしあなたが私のもとを去ってしまったら)
晩春の鳥たちも悲しげなさえずりを繰り返すだけ
柔らかく降る雨の音を避けてわたしは彷徨ってしまう
悲劇的な想像は続きます。
「refrain」と「rain」で強引に韻を踏んでいます。
With you beside me
The rose would bloom in the snow
With you beside me
No winds of winter would blow
でもあなたが側にいてくれれば
雪が積もる中でも薔薇の花は咲くし
冬の厳しい風が吹き荒れることもない
これは希望的観測。でも少し救いがありますね。
I gave you my love, and I was living a dream
But living would seem in vain
if I, If I've ever lost you
わたしはあなたを全身で愛して
夢のように素敵な日々を過ごしてきた
でも(だから)もしもあなたを失うことがあれば
生きる意味を無くしてしまいそう
「in vain」は「(せっかくのものが)無駄になってしまう」「むなしくなってしまう」という意味。
ここまで見てくると、実際の「You」はどこにも登場せずどんな人なのかも分かりません。主人公の一方的なモノローグ。だから実際の2人の関係に危機があるのか、それも主人公だけが心配しているのかも分かりません。こういう歌詞って意外と多いですね。英語圏特有の「自分中心視点/世界観」。広義に解釈すれば「You」は恋愛相手ではなく「神さま的なもの」とも考えられます。
歌う際の表現としては
・悲哀の予感を全面に出して歌う
・希望をちゃんと提示して歌う
で全然違ってきます。そういう解釈の余地があるのがジャズ曲の面白いところですね。
ポイント4:曲の構成
AB(1)AB(2)の各8小節の32小節
(下記ではAB各16小節で記載されていますが)
冒頭の音階がいきなり飛躍しているので、見失わないようにしたいですね。

ポイント5:様々なバリュエーションを聴いてみましょう
ジャズ、特にジャズボーカルものって意地になって古い録音しか聴かない人もいますが、ソレはソレとして新しい感覚のものを聴かないのは勿体ないです。確かにスタンダード曲を何の工夫も無く昔のアレンジのまま歌っている人も多いですが、R&D, Funk, Hip-Hopなどを経由した本当の「モダン」な感覚で歌っている/演奏している人もいるので、偏見抜きに聴いてみましょう。
Chet Baker, Paul Bley、1985年録音
晩年の演奏。ピアノとのデュオで、隙間を充分に活かしたトランペットの音色が哀愁たっぷり。
Grant Green、1962年録音
特徴的な単音弾きで、一瞬「B.B. King」っぽいフレーズも入るけど、ブルースに行きそうで行かないのが面白いですね。
Booker Little、1961年録音
活動期間が短かったので、晩年の録音(享年23歳)。輪郭のハッキリした音色で、聴き心地の良いトランペット。
Kenny Burrell Octet、1963年録音
ボサノバで。
Dena DeRose、2000年録音
語るような歌い方。肩の力が抜けていて、説得力があります。バラードはこんな感じでいいのかも。
Alice Ricciardi、2008年録音
モダンな歌い方。こういう古い曲をこんな風に新鮮な感覚で歌われると嬉しくなりますね。リズムでの遊びが楽しいですね。
Kate Reid、2018年録音
リズミカルなピアノ伴奏で弾むように歌っています。
◼️歌詞
If I should lose you
The stars would fall from the sky
If I should lose you
Leaves would wither and die
The birds in May-time - they'd sing a mournful refrain
And I would wander around - hating the sound of rain
With you beside me
The rose would bloom in the snow
With you beside me
No winds of winter would blow
I gave you my love, and I was living a dream
But living would seem, in vain
if I, If I've ever lost you
