『詩』ワーケーション
宇宙はね、と
コーヒーを手に柱にもたれて君が言う
君の話はいつもあんまり突然すぎる
宇宙はね 膨張しているのよ
v=H0r の速さで
僕の前にはタブレットがあり タブレットのなかは
都会のオフィスビルの一室だ
室長は毎日髭面で(もっとも日によって
髭があったりなかったりするほうが
ちょっと不気味ではあるけれど)
世界中に生息する気楽なスタッフと
ひとりオフィスで連絡を取る 室長の頭越しに
限りなく白に近い銀鼠色のタワーマンションが 誇らしげに
倍強度ガラスの窓の向こうに霞んでいる
僕は聴いている感を出すために
あてつけがましく敢えてヘッドホンをして
その実君の声だってちゃんと聞こえてる
宇宙がどうしたって?
こちらはワーケーションの真っ最中
海風を受ける古民家の
潮焼けした松の柱がぎしぎしと軋む
少なくとも風よりは重い
君の体重を支えているせいで
膨張してるの そうやって
あなたが室長さんと話してるあいだにも
膨張してるのかい?
「予算は膨張などしていないが?」 不審そうに
タブレットのなかで室長が言う
ああ、いえ、と 僕は適当にごまかして
話を切り上げようとするけれど 実のところ
室長だってひとりで暇を持て余してる
そうやってあなたが話してるあいだも 室長さんと
あなたのあいだは広がってるの
v=H0r のスピードで
それは宇宙とは関係ない
物理的にじゃなく ココロの問題として
あなたがここへ来てしまったから
昔障子があったはずの
敷居の先は廊下になって
開け放たれたガラス戸があって 海風が
下っていった海岸の先から
室内めがけて吹き込んでくる
わざわざ出力して梁に貼ったスケジュール表が
海風に吹かれてカサカサと鳴り
いつしか予定はまっさらに
潮の香りに消されてしまう
僕をここへ呼んだのは君だけれど?
ようやくタブレットをシャットダウンすると やや不満げに
室長の顔が歪んで消える
いけなかった?
いいや 僕は十分満足しているよ
ところで膨張が何だって?
膨らんでるのよ
あなたと話してるあいだにも 宇宙はね
寂しいとおもわない?
残念ながら 僕の頭は
膨張する宇宙を入れるには狭すぎるようだよ
そんなことじゃなくて
今ある星を目指してロケットに乗っても その星はね
追いつくより先に
離れて行ってしまうのよ v=H0r の速さでね
タブレットを足元の
ブリーフケースに押し込んで 僕は立ち上がる
それはそんなに速いのかい?
敷居を踏んで 君の隣に立つと足の裏が痛い
速さじゃないの 問題は
手にしたカップに視線を落として君が言う
間近に見る君の顔は
今初めて見たかのようだ
両手にカップを包んだまま 大きく眼を瞠いて
まっすぐに君が問いかける
ねえ届いてる? 私の気持ち

ネットニュースで宇宙が膨張しているという記事を読んでいたら、こんな詩ができました。宇宙ともワーケーションとも、何の関係もないけれど。
実際宇宙は膨張し続けているんだそうです、約326万光年(1メガパーセク、というそうです)離れるごとに、秒速67.4kmで。何のことやら全く理解できません。どんなに大きな概念でも人間の脳よりは小さい、そんなことを考えたことがあるけれど、宇宙のこの大きさは、とてもじゃないけど想像するのは不可能です、少なくとも僕は。
果て、ということも考えてみようとするけれど、ハテ? と首を捻っておしまいです・・・あ、気にしないでください。
なので、全然関係のない、こんな詩になってしまいました。
ワーケーションはいいですね、しっかりと自分を律することのできる人には。僕の頃にはなくてよかったとおもいます。そんな場所で仕事するなんて、僕のようにダラけた人間には無理ですね。個人で事務所を構えて仕事をするのだって大変だったのに、それがあなた、リゾート地なんぞに行った日には(汗)。
詩のイメージは、海沿いの古民家コワーキングか、町おこしでできたワーケーションスペースといったところです。
今回もお読みいただきありがとうございます。
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