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yas_260516
菱餅は年中そこにある [ショートショート]
茶箪笥の奥に、小さな箱がしまわれている。桃色、白、緑の層がくっきりと分かれた菱餅が、その中に三つ並んでいた。
「どうしてまだ置いてあるの?」
私は母に尋ねる。菱餅は三月のものだ。それなのに、もう五月になろうとしているのに、母はそれを捨てずに取ってある。固くなって、きっと食べられない。
母は新聞をめくる手を止め、ちらりとこちらを見た。
「別にいいでしょ。飾ってるだけよ」
確かに、この家では季節が巡っても、台所の景色はあまり変わらない。夏になっても土鍋がしまわれることはなく、秋になっても扇風機が片隅に残る。年中行事のものも、気づけばいつまでもそこにある。
「そのうち片付けるから」
母はそう言ったが、その言葉は何度も聞いた。私は何も言わず、冷蔵庫から麦茶を取り出し、コップに注いだ。
六月になっても、菱餅はそのままだった。私はもう何も言わなかった。母はきっと忘れているのだ。
七月、帰省した姉がそれを見つけて驚いた。
「え、まだあるの? これ去年のじゃないよね?」
母は気まずそうに笑っていた。私は、姉がすぐに片付けるのではないかと期待したが、彼女はただ呆れたように肩をすくめるだけだった。
それからお盆が過ぎ、九月の風が吹き始めたころ、私はふと思い立ち、箱を手に取った。蓋を開けると、菱餅は変わらずそこにあった。少し色が褪せているようにも見える。
私はそっと蓋を閉じ、箱を元の場所に戻した。
冬が来ても、そこに菱餅はあった。
「そろそろ片付ける?」
ふと聞いてみると、母は「あら、そうね」と答えた。しかし、年が明けても、それはやはりそこにあった。
そしてまた、三月が来る。
新しい菱餅が台所に置かれた。箱の中のものは、そっと入れ替えられていた。
私は何も言わず、それを見守った。
