【人生を整理する時間】仕事はある。でも、このままでいいのか――35歳の頭に残った一枚のチラシ
仕事はある。でも、このままでいいのか――35歳の頭に残った一枚のチラシ
会社の異動を受け入れて、これから5年もモロッコに行くのだとしたら、やはりその先は、会社人間というか、会社に骨をうずめることになるのだろうな、という気がしてくる。
帰国する頃にはもう40歳だ。
その間、日本でそのまま通用するような経験を積めるわけでもないのだろう、とも思う。
モロッコとその周辺の商習慣に妙に詳しくなり、魚のこともその地域の事情にはやたら強くなるのだろう。
けれど、それが自分のその後にどうつながるのかは、よく分からない。
モロッコといえば、やはりタコだ。
ただ、そのあたりは大手商社がすでに押さえている。今さら割って入るのは簡単ではないように思う。
魚専門の商社だってある。
けれど、その世界の王道はやはりマグロだろう。
自分のような中規模商社の人間では、そこでは歯が立たないかもしれない。
スーパーも、今は鼻息が強い。
ただ、いまさらそこへ入ったとしても、新入社員同然のように扱われるのは正直つらい。
そう考えていくと、どうも悲観的なことばかりが頭に浮かぶ。
今日、会社の帰りに夕飯を食べようと思って寄った食堂に、青緑色のチラシが置いてあった。
何となく気になって手に取ってみた。
そこには、
「結論を急がず、まず状況を整理します。」
と書いてあった。
状況整理か、と思った。
どんなことをするのか、少し気になって持ち帰った。
ただ、具体的に何をするのかについては、特に細かくは書いていない。
それでも、なぜか気になった。
とはいえ、明日からまた出張だ。
新潟と山形の県境あたりの漁協や仲買会社を回る予定になっている。
もう、行かなくても、今の時期にどんな魚がどれくらい水揚げされているかは、だいたい分かる。
それでも上司は、ちゃんと現場を見てこい、今年の水揚げはどんな具合か、自分の目で確かめてこい、という。
だから出かけることになった。
今まで何度も通った慣れたコースだから、気は楽だ。
ただ、行く以上は、「これは」と思うネタを一つか二つは拾ってこないといけない。
そこが少し気が重い。
なるべく広く回った方が上司の覚えもいいだろうと思って、今回は10日ほどかけて、新潟の南の方から秋田の一歩手前あたりまで回るつもりでいる。
こういうことをしていると、転職の情報収集をする暇など、やはりないのかもしれない。
そもそも、自分は本当に転職したいのかどうか、そのあたりすらまだはっきりしていない。
仕事はある。
現場もある。
行けばやることもあるし、それなりに成果も求められる。
これまでずっと、そうやって働いてきた。
けれど、その一方で、このままでいいのか、という気持ちも消えない。
モロッコへ行くのか。
転職を考えるのか。
会社に残るとしても、どんな形で残るのか。
それを考えなければいけないと思いながら、結局また、いつものように現場へ向かおうとしている。
食堂でもらってきた青緑色のチラシは、いま鞄の中に入ったままだ。
「結論を急がず、まず状況を整理します。」
その言葉だけが、妙に頭に残っている。
このブログはフィクションです。
