あなたと座ったビールケース
オカムラ×noteで、投稿コンテスト「#いつもの場所に座って」の記事を
拝見しましたので、大切な人への感謝の気持ちを綴りたいと思います。
誰とも会話できずに・・・
私が10歳の時に父親がマイホームを建てて市街地から
郊外の田舎へ引っ越しました。
転校生は何やら目立つのか?わかりませんが
連日、私は違うクラスの子まで話しかけてきて
ちょっとした人気者になっていました。
そんなある日、いつものように学校へ行くと
明らかに昨日までとは様子が違っていました。
誰も私に寄ってこないのです。
それどころか、明らかに避けている雰囲気・・・。
「なぜ?」
「僕が何をした?」
ちょっと勇気を出して誰かに近づくと
慌てて逃げ出す始末。
直ぐに悟りました。
「イジメられてる・・・」
久しぶりの会話
誰とも話さない学校生活が一週間ほど過ぎたある日
私は、このまま学校へ行っても何だか無意味な気がして
学校とは正反対の小川のある公園へ向かっていました。
腫物扱いされるぐらいなら
誰もいない場所で気兼ねなく居たかったからです。
小川の側で暫く魚の動きを呆然と眺めていた時に
近くのベンチに座っていた初老の女性が
声をかけてくれました。
「ぼく、こっちにおいで」
吸い込まれるように女性の方へ向かうと
「魚は見えたかい?」
「うん、見えたよ」
「そうかい、昔はもっと一杯おったけどな~」
それから女性は、たわいのない話を延々と
私に語ってくれました。
私の事情を察していたのでしょう。
学校の事には一切触れず
ただただ一緒に居てくれました。

ビールケースの椅子で
ある日、いつものように公園へ行くと
いつもと違う光景がありました。
いつものベンチの代わりに
ビールケースに座っている女性の姿が・・・。
「あれ、ベンチは?」
「私が来た時には川の中に入っていたんだよ!
夜中に不良どもが壊して川へ放り込んだんだろうね!
罰が当たるわ、きっと!」
「このビールケースは?」
「酒屋の大将に貸してもらったよ」
女性はわざわざ私のために
ビールケース椅子という名の
「居場所」を用意してくれたのです。
それから暫くの間
女性はいつもビールケースに座って
私が来るのを待っていてくれました。

いつの間にか
女性とのビールケース会話は何だかんだで
一年近く続きました。
私の学校での無視イジメが一年ぐらい続いたからです。
学校のことは一切触れず
説教染みたことも
価値観の押し付けみたいなことも
一切ありませんでした。
「あの鳥は今、何て言ったのかね~?」
「敵が近くにいるぞ!じゃない」
「わたしゃあ、愛してるよって聞こえたよ」
「じゃあ、あっちの鳥は?」
「私も愛してる~って」
「じゃあ、恋人なの?」
「なりたてじゃ」
「そーなんだ・・・」
こんな会話がとても楽しかったです。
学年が変わり公園の桜も綺麗な頃
私の無視イジメが突然終わりを告げました。
イジメの原因は学校のガキ大将が
転校生の私がちょっとした人気者に
なっていることへの嫉妬でした。
そのガキ大将が皆から逆に集団リンチされて
私へのイジメが解除されたみたいです。
私は、学校を抜け出し直ぐに公園へ向かいました。
いつものビールケースは姿を消し
以前のようなベンチが新しく設置されていました。
私は初めて女性にイジメの告白をし
その終わりも告げると
優しく微笑んで言ったのでした。
「いい宝物手に入ったのう」
「宝物?・・・・・」

イジメの終焉からは学校からの脱出が極端に減り
いつの間にか公園で女性と会話することもなくなりました。
20年後
あれから20年の年月が経ち
娘たちと想い出の公園を訪れました。
それほど景観は変わっていなくて
とても懐かしく
とても居心地が良い空間。
一年近くあれだけ会話したのに
あの女性の名前すら知りません。
おそらく、もう天国で楽しく
過ごされていることでしょう。
今だからこそ思えます。
あなたの偉大さが。
あなたと出会っていなかったら
私の今はどうなっていたやら?
言葉では表しきれないこの想い。
決して忘れません。
この記事が削除されない限り
あなたの偉大さは不滅です。
今までもずっと座ってきた数々の椅子。
これからも座るであろう数々の椅子。
私にとっての生涯最高の椅子は
あなたと座ったビールケース椅子一択です。
「本当にありがとうございました。」

