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初期設定の愛 6.暴力未遂と女神のタオル

N先生、新任の男性教師、でかい眼鏡をかけている。
陽気で明るい先生だ。さわやかな笑顔で男女問わず人気の先生。
女神の担任で、社会科の教師だ。
 
そんなN先生に、殴りかかった。
先生が咄嗟によけてヒットはしなかったようだ。
理由はわからない。
それ以来 , “佐伯さん”、とにかく評判が悪い。男子の間での評判が悪いのだ。ヒットしなくてよかった。正直な感想だ。
 
女神の裏の顔か、とても信じられない。もしかして女神がふたりいるのか。
 
それでも彼女への不思議な思いは変わらない。何も変わらない。
同じままだ。
 
この事件を自分は目撃したわけではない。
N先生はいい先生だ。でも、でもN先生が嫌いになった。
佐伯さんは悪くない。絶対に悪くない。
確信が持てる。何か事情があったのだと思う。
 
そんなころ、球技大会があった。学年毎の毎年恒例行事だ。
前日の大雨で開催が危ぶまれたが、当日は雨が上がり、何とか開催できた。
クラス対抗の男女混合のキックベースだ。
見事優勝した。
決勝戦、女神が見てる。一塁の横。その隣にはKちゃん。
何かしなくては。どうする、どうする。渾身のヘッドスライディング、1塁へだ。みんな大盛り上がり、泥だらけの顔がおおいにウケた。「やったー‼」

女神は笑っていない。心配そうに見てる。Kちゃんは笑ってる。
 
泥だらけのまま、教室へ戻る。各教室のベランダに、小さいが洗い場がついている。とりあえず顔と足を洗う。隣のクラスのベランダから女神が心配そうに見つめる。手にはタオル。私に渡したいようだ。
それに気づいたS君が、僕に受け渡しくれた。
 
とりあえず首にまいておいた。結局そのタオル、泥だらけのぐっちょぐちょになってしまった。 “あー、しまった。女神のタオルが。”
せっかくの好意なので、急いで使おうと思い、完全に泥を洗い落とす前に、顔と足を拭いてしまったのだ。何しろ、じっと見つめているのだ。
パニックになり、水で洗ってみたり、絞ってみたり、“ あ゛~こりゃだめだ”。見かねたS君も、一緒に洗ってくれた。
女神は、微動だにせず、じっと見つめていた。
 
部活の時に、額の汗を拭くタオルだったのだろう。
 
なんだか泣けてきた。泣けて泣けてしょうがない。
 泣いているのは、当時でなく今だ、この文章書かきながら、泣けてきた。
 情けない。何だか情けない。本当に情けない。

もう戻れない、あの時に、それは知っている。
 
そのまま、S君に返してもらった。お礼も言わずに・・・。
 
どろどろのタオルをそのまま彼女に返したこと、今でも後悔している。
洗って返すのが、人間の常識だ。当時は知らなかった。


ありがとう、タオルを貸してくれて。すごくうれしかった。
  
 
7.ラブレターと英語の教科書 へつづく


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