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なぜライオンは熱中症で死ぬのか?☀️

ニュースを聞いて…

私の古巣の動物園でライオンが3頭亡くなった。死因は熱中症とのこと。

動物園には慰霊碑はあるがお墓は無い。死んでも獣医学の発展に貢献し、そこで得られた知見は、地球の野生動物保護に広く活かされている。

先に言っておくが、古巣と言えども、私は今では素人一般人と同じなので、最近どういう状況だったのか全く知らないので、これから言うことは鵜呑みにしないで頂きたい⚠️

私にわかることと言えば、動物園担当者の悲痛な気持ちくらいだ。テレビやネットの部外者が軽薄に『かわいそう』とか、飼い方云々について、本物のライオンを見たことも普段興味も無い輩が、受け売りで好き勝手言っている...。

動物園の動物は個人のペットではないので、単なる動物好きの動物愛護の精神だけでは務まらない。公共の財産であり、貴重な生きた学術資料でもあるので、その重圧と緊張感をもって日々飼育という仕事をしている。動物園動物の多くは間接飼育なので、犬猫のペットの様にベタ馴れしてスキンシップをできるわけではない。特にライオンなど肉食動物は、管理手順を間違えば、自分や他人の命を落とす事故につながる重い責任の仕事だ。ライオンの飼育担当者なら必ずある、何度も何度も確認してから毎日帰るのに、『もしかして、カギを閉め忘れたんじゃないか...』という悪夢の妄想にうなされて夜中に目が覚める日々...。ちなみに、施錠は複数人で確認する規定だし、特殊な構造上、仮に1個所解錠していても動物は簡単に外に出られない安全設計になっている。

野生動物を飼うということ

さてライオンに限らず野生動物とは、どんなに優しさを持って接したり、丁寧で上手な飼育をし続けても、人間に心を開かない動物も少なくない。それが野生動物というものだ。飼い主にベタ馴れするように改良されたペットのような動物なら、かわいく感じるのは当たり前。自分になつかない動物に対しても、分け隔て無く大きな愛を持って接することができるかが、飼育のプロとアマチュアの違いだ。私は教員を長くやっていたが、教員とはいえ中には相性が合わない嫌な学生もいるものだが、だからといって好きな学生だけに熱を入れて教えるのは、プロの仕事では無い。飼育係とは、そんな学校の先生に通ずるメンタルの仕事でもある。さらには、8時〜17時まで毎日担当動物に寄りそっているわけで、長生きする動物なら、自分の家族よりも自分の担当動物の方が長く一緒にいることになる、そんな絆の深い関係になるのだ。

だから、担当動物が死ぬということは、飼育担当者にとって、自分の家族や子どもが死んだのと同じ。

しかし、彼らはペットロスのように悲しみに没入はしない。残された担当動物たちをいつもと同じように、全力で変わらず対応しないといけないからだ。動物たちは人間の心を読むので、落ち込んでいることを動物が感じれば、動物にも不安が伝染して何となく元気が無くなるものだ。さらには、厳格な順位制の社会性動物であれば、群れのリーダー役である人間が元気がない(隙がある)となれば、攻撃して一か八か自分が優位に立とうとする危険で野心的なものが出ることもある(類人猿、ゾウ etc.)。

このようないろいろな理由で、プロの飼育係は、決して悲しみを表に出さない。それは悲しみが麻痺して感じなくなっているわけでは無い。これは誰に教わること無く、そうなっていく。

ライオンは暑さに強いのか?

さて、ライオンの熱中症死について、小声でテキトーな感想を述べる。テキトーなので読んだ人は、すぐ忘れて欲しい。

ニュースでは『ライオンはアフリカで暮らしているので暑さに強いのでは?』というコメントが多い🗣

☝️私がケニアで調査していたライオン。広大なサバンナ(草原地帯)には木陰が少ないので、獲物にすぐ見つかってしまうのと、激しい運動による熱中症のリスクから、昼間の狩りは消極的。ケニア最大のライオンの生息地マサイ・マラ国立保護区は、赤道直下でも標高が高いので、平均気温は20℃前後。日中30℃を越えても湿度が低いので、日本の暑さとは全く異なる。

まず、哺乳類で暑さに強い種などいない。砂漠の動物だって灼熱の日中は、砂によって完全に断熱された深い砂の中で寝ている。寒さに比べれば、暑さ(熱中症)は、ものすごい短時間で絶命し、重篤になると為す術がない。

全身に冷却用の汗腺が発達して、熱がこもらないように無毛化に進化したヒトが、哺乳類では相対的に暑さに最も強い動物だが、動かないようにするか、木陰などにいるかしか、体温が上がらないようにする手段がない野生動物が、実際には大半だ。

ちなみにアフリカや砂漠と言えば〝暑い〟側面しか知らない日本人が多いが、夜は放射冷却が起きて熱が地面から逃げるため、昼間の気温から20℃以上気温が下がることも珍しくない。だから暑いところの動物は、日々寒さ対策も工夫して暮らしているのよ🤧

『体温を上回る気温』ってナニ?

ついでに、気象予報士が『体温を上回る気温』という、理系の私からすると珍妙なフレーズを好んで使うが、体温基準と熱中症の関係は、恒温動物である哺乳類では、ただちに問題にはならない。大事なポイントは、体温の36℃以下でも熱中症になるから、そのフレーズは、あたかも発病の絶対値・限界値かのような誤解を与えるものだ。実際に、体温を上回る気温の熱帯地域で暮らしている人は世界に大勢いるし、もし体温を上回る温度だけが熱中症の原因で危険と言うなら、例えば風呂やサウナ、温泉も医学的に禁止するべきだが…なぜ大丈夫なのか?それらは何が酷暑下の気温と違うのか?どこまでが大丈夫で、どうなればダメなのか?疑似科学の受け売りを鵜呑みにするのでは無く、簡単な理系リテラシーをもって、自分自身で理屈を考えてみれば、情報過多で不要な不安に怯えること無く、生きていくための正しい答えは簡単に導き出せる🛀

ちなみに野生のホッキョクグマは、季節の変わり目には氷点下でも熱中症になることがある。マイナス50℃❄️に耐えられる毛皮や循環器性能の防寒仕様・寒冷地仕様なので、北極圏でも急激な気温上昇が起こる春夏には、ホッキョクグマは激しい運動を控えて、喉から腹側の面を雪氷につけて〝たれぱんだ〟のようなダラッとした姿勢で、気温上昇で火照った体温を下げようとする。ところが日本の酷暑の動物園で、ホッキョクグマは熱中症になることはない。それは日本の環境への馴化に時間をかけて成功しているからで、ここに熱中症対策の答えが隠されている。簡単なことで、体温を上回る気温がどーのこーのとか、とりあえず関係ないのよ🌡

体温を基準に気象を警鐘する生理学的な意味がわからん…🤷🏻‍♂️
まぁ、高温は安全ではないので用心に越したことはないが。一方で、体温を下回る気温では、なぜギャーギャー騒がない?オレたち変温動物か?

元祖サファリパーク型展示

さて、多摩動物公園のライオンの生態展示は、おそらく世界初のサファリ型展示をはじめたところだ。従来の猛獣用の檻型展示では無く、群れの動物の社会構造を観察できる画期的な形式(生態展示)で、しかも動物がいる放飼場の中に車という〝檻〟に人間が入って観察できるという当時前例のない逆転の発想をよくも採用したものだ💡

それには数々の不可能にチャレンジした先人達がいた。最近リニューアルした最新型のことは私は知らないが、私が勤めていた頃の旧型のライオンバス🚌は、数々の対猛獣仕様に改造されていた。防弾ガラスとか、パンクしないとか、車内に引火性の素材を一切使っていないとか、まるで、そのまま戦場に行ける装甲車並の秘密兵器を搭載していたが、それを知る来園者はほとんどいない。万一に備えて完璧な通信システムや2号車が連結して乗客を救助できる仕様にもなっていた。ワクワクする楽しい外観の車両だが、メカ好きの私のお気に入りの隠れた最強改造マシンだった。乗降場所もライオンが忍び込まない工夫が随所にありスゴかった。さらにシマウマ模様のRV車に乗った飼育係がライオンの群れの中を巡回し、個体管理や観察するのは、動物園の飼育業務として異例の方法で、ちびっ子が憧れるレンジャー観があるかっこいい体制だろう。

特殊車両(ライオンバス)の仕様もスゴいが、京王のバスの運転手さんの1cm単位のピタ停めドラテクもスゴかった!

今となってはサファリパーク型展示としては珍しくもなく、民間のそれと比べれば放飼場の敷地は狭い部類に入るが、ライオンを間近に観察できる面白さは全く色あせていない。展示がリニューアルしたようで、私が現役だった頃のモスクがあった古いライオン展示しか知らないが、昔のライオンのセクションや担当飼育係の詰め所が居心地が良くて好きだったな...今は昔。動物園には建築技術と芸術性を兼ね備えた傑作獣舎が数々あり、私は文化遺産として残したいものが数々あるが、目的が生き物を飼うスペースなので、老朽化施設を使い続けるわけにはいかないのが残念でならない。

展示構造の長所と短所

今回の動物の熱中症の事故でまず気になったのが、外周がお椀型(変形ピット型)のサファリゾーンの構造だ。旧舎はライオンバスに乗らなくても、周囲からライオンの群れを観察できる、半世紀以上前に考えられた素晴らしい設計だ。旧展示では、群れのライオンの観察のしやすさから、動物園では大学生の卒業研究や国内外の研究者を受け入れ、ライオンの行動学の研究論文を数々残してきた研究・教育実績の歴史がある。

ライオンはネコ科最大種であるにもかかわらず、跳躍力はあるので、屋根のない展示獣舎の設計上は、十分な塀の高さが安全面で必要になる。もしかすると、想定を超える異常気象で、塀で囲まれて熱がこもりやすくなっていたのかもしれないが、それについては、私も調べていないのでわからない。

動物園の展示 ー特に猛獣関係は、基本的には隠れる場所をできるだけつくらない設計にするのが基本。理由は、逃げた個体がいないか、死んでる個体がいないか、パッと見て一瞬で全個体数の確認や健康状態がわかる必要があるので、動物の身体が完全に隠れてしまう場所や影になる見にくい場所はつくらないようにする。そういった安全管理、健康管理優先の構造が、今回の記録的な酷暑の不運と重なって体調を崩し、死亡事故が起きたのかもしれない。さらにライオンバスの通路の舗装道路も、草や土の上に比べれば高温になりがちな材質でホットゾーンとなっていたはず。

トラとライオンを比較してみよう

さて、ここで熱帯地域の生息条件や体型がほぼ同じで、生理機能も同等なネコ科のライオン🦁とトラ🐯で、両者の熱中症のリスクの差が大きい理由を考察・独自解説してみよう。

骨格標本なら、素人にはトラとライオンの見分けがつかないほど形態は似ている。

①水を使えるか否か

まず、ライオンは極度の水嫌いだ。泳げないわけではないが、なぜか水に入りたがらない。そういう風に神様がライオンという動物を設計した。トラはライオンより暑がりだが、水を嫌がらないので、暑いと水風呂のように浸かって体を冷やす。ライオンはそれを絶対やらない。それほど水を嫌うのだ。水嫌いはネコ科に共通の性質であって、むしろ水に入るトラやジャガーの方が例外的。

②社会性か否か

次に、ライオンはネコ科で唯一社会性動物で群れをつくる。これは動物行動学的に極めて重要で、何かと原因究明で見落としがちな点。つまり、社会性には厳格なルールや行動の所作があるため、上位個体がいる場所には、通常は下位個体は近づこうとせずに距離を置く。だから強い上位個体が涼しい快適な場所で休んでいると、そっちに行きたくても、気まずくて行くのをやめてしまうわけだ。どんなに暑くても、上に逆らわないのがライオンの掟。わりと若い個体、年寄りなど群れの下位個体が、結果的に群れの周縁に追いやられるので、閉鎖空間の動物園放飼場では、日陰エリアを設計上作っていたとしても、この順位制の個体関係の影響で、その場所に行けないか有効活用ができず、結果、その周縁で熱中症になりやすい悪条件に晒されていた可能性も考えられる。この社会性の習性と熱中症の関係は、アフリカの乾季の干ばつなどで、命に関わる暑さをしのげるか否か運命の分かれ目になることは、野生でも起こりうる。この遺伝子に組み込まれた順位制の掟(習性)で忠実に我慢した結果、悲劇が起こることは十分あり得るのだ。一方、トラは群れをつくらず単独性なので、わりと行動に制限がないため、木陰や水に入ることがトラブルフリーで気兼ねせず自由によろしくやっている。

③冷却に不向きな装備品の有無

最後に、まぁ、あまり関係無いが、トラよりライオンの方が形態的に熱がこもりやすい。ライオンのオスには、大きなタテガミがあるからだ。首や耳は体積に対して体表面積が大きくなるので、熱力学の法則上、体温の熱を逃がしやすい部位になるが、そこを特大のネックウォーマーのようなタテガミで完全に覆ってしまっている。これはライオンは短気でオス同士のケンカが絶えず、ネコ科特有の急所の首を咬む攻撃を防御するためのプロテクターとして進化した形態だが(新宅説)、それが副産物として熱帯地域での熱中症になるリスクを高めている。だからオスは直射日光がキツい日中は狩りも積極的にやらない。ただし、タテガミが立派な個体ほど優位な立場になるので、涼しい場所を優先して占有することができるので、立派なタテガミのオスが、真っ先に熱中症になることはないだろう。

困難を乗り越えてこそ

以上、何の情報も入れていないので、憶測だけの無責任な結論になるが、今回のライオンの熱中症の死亡事故は、担当者の管理ミスではなく、異常気象による災害死と言えるだろう。だから担当者も気を落とさずに、自分を責めない方が良い。きっと、今回得られた教訓から、みんなで知恵を絞って、必ず次の気象危機を乗り越えられると私は信じている。

私の浅知恵だけど、例えば放飼場全景を計測できる非接触型の赤外線温度計の設置で全体の温度管理やその分析したデーターから地形改善するとか(熱変化観察)、あるいは、これまでもやっていたとは思うが、より精細なライオンの相性別の放飼シフトのプログラムを組むことで、劣位個体でも放飼場の涼しい場所を各自確保しやすいようにするなど(行動学的対処)...はどうかな?『そんなことは、とっくにやってるわっ💢』って釈迦に説法で怒られそうだな...。まぁ、このコラムは素人向けに、素人みたいな私🔰が言っている戯言なのでご勘弁を🙏

どうせ誰も読んでないだろうしナ...🚬

おしまい🐾


📚『ナショジオキッズ 潜入! 世界のフィールドワーク ビッグ・キャット』
カーニー・エリザベス著、新宅広二 翻訳
MdN インプレスブックス

私が翻訳したナショジオの児童書。ネコ科の進化や形態、最新の保全まで平易に解説しているので、理科教育、環境教育などの教育関係者にもオススメです🦁

https://books.mdn.co.jp/release/82361/

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