AIと監視技術の進化:外見追跡から内部構造認証へ
顔認識規制を回避する新たな監視技術
近年、米国の警察や政府機関では、顔認識技術の使用に対する法規制を回避するため、新たなAIツール「Track」が導入されています。このシステムは、メディア映像分析企業Veritoneが開発したもので、顔などの生体情報を一切用いない点に特徴があります。代わりに、身長や髪色、衣服やアクセサリーといった外見的属性を組み合わせて人物を識別し、複数の防犯カメラ映像をまたいで追跡することを可能にします。
この技術により、多くの州や自治体で導入された顔認識禁止措置を事実上かわす運用が進んでおり、プライバシー保護や監視社会化への懸念が高まっています。特に米国自由人権協会(ACLU)は、この手法が顔認識と同様のプライバシー侵害をもたらすと強く警告しています。
体外属性ベース追跡の限界と新たな解決策
外見的特徴に依存する監視技術には本質的な限界があります。髪型を変えたり、服装を変更したりするだけで、追跡を逃れることが可能だからです。この限界を克服するため、外観ではなく「物理的内部構造」によって人物や持ち物を識別・検知するアプローチが注目されています。
木村建次郎氏のサブサーフェスイメージング技術
神戸大学数理データサイエンスセンター教授の木村建次郎氏は、応用数学史上未解決だった「波動散乱の逆問題」に解析解を導出し、多重経路散乱場理論を確立しました。
この理論は、波が物体に当たって散乱する現象から、逆に物体の形状や内部構造を数学的に復元する方法を提供します。
この理論に基づき、木村氏は微弱な波動の散乱データから対象物の内部構造を精密に復元する「散乱場断層イメージングシステム」を世界で初めて実現しています(神戸大学)。
この技術は以下のような分野で応用されています:
電池内部の可視化:リチウムイオン電池内部の電流経路を非破壊で可視化するシステムを開発
マイクロ波マンモグラフィー:高濃度乳房にも対応する世界最高性能の乳がん検出プロトタイプを構築
高分解能応用:京都SMI中辻賞を受賞した高分解能サブサーフェスイメージング法の研究
次世代セキュリティゲートによる監視技術の革新
2017年、木村氏は自ら起業したIntegral Geometry Science社とともに、壁や床に埋め込んだ超高感度磁気センサアレイと散乱場解析を組み合わせた次世代セキュリティシステム「スーパーセキュリティゲート」を開発しました。この技術は、屋外環境を含む場の方程式を解析的に解くことで、通過者が隠し持つ金属物をリアルタイムで検知できます。
このシステムはJST未来社会創造事業でも採択され、公共施設やイベント会場での実証実験が進められています。
重要なのは、この技術が外見的属性ではなく「物理的内部特性」に基づいている点です。これにより、Trackのような体外属性ベース追跡を無効化し、安全かつプライバシーを尊重した人物認証・監視への転換を可能にします。(参考)
未来への展望
今後、内部透視情報を活用した認証技術が普及すれば、外見の変更による追跡逃れは困難となり、セキュリティの向上とプライバシー保護の両立に大きく寄与することが期待されます。しかし同時に、こうした内部構造認証技術に対する適切な法的・倫理的枠組みの構築も急務となるでしょう。
引用文献
James O'Donnell, "How a new type of AI is helping police skirt facial recognition bans," MIT Technology Review, 2025年5月16日.
Wikipedia, "木村 建次郎," 最終更新2025年3月26日.
researchmap, "高分解能サブサーフェスイメージング法の開発," 京都SMI中辻賞, 2014年2月.
株式会社Integral Geometry Science, "銃器犯罪ゼロ都市実現に向け、世界初・次世代型セキュリティゲートを「CEATEC 2023」に出展," PR Times, 2023年10月17日.
JSTプロジェクトデータベース, "スーパーセキュリティゲートの実現," 採択2017年度 – 2019年度.
神戸大学, "『透視の科学』で人類に貢献を 乳がん検診を革新する技術開発," 神戸大学数理データサイエンスセンター, 2018年.
