焼きおにぎり!【続★まともな人からいなくなる#13】
事務所で盛大にモラハラを繰り広げていた横ちゃんは、職員全員から厨二病として雑に扱われた結果、凶悪化して産業医が介入し、休職になった。
横ちゃんについて誰も心配はしなかったが、やっぱり後味は悪かった。
「なぁ、今日どっか行かへん?」
介護福祉士の堀江さんはバツが悪そうな顔で私を誘った。
私はパート事務員の河村さんと、管理栄養士の大川みきお 通称:ミキティも誘って駅前の居酒屋に予約をした。
私たちは乾杯もしないでそれぞれビールやつまみを食べだした。
「横ちゃん休職になったらしいけど戻って来るんやろか」
「施設長を巻き込んだから無理じゃない?もし戻ってきてまたモラハラしたら、絶対録音してやるんだから!」
被害を受けたミキティは、うんざりした顔でそう言った。
「なんであんなふうになっちゃったんやろねぇ横ちゃん。うちの息子もバカだったけど、反抗期終わったら厨二病も治って今は普通やのに」
「荒れる新成人みたいなもんじゃないの?見た目が派手じゃなかっただけで!擬態されたらわかりにくいのよ!」
ミキティのたとえに私は笑いが止まらなかった。
「だってそうでしょ?目立ちたい!注目されたい!って!気持ち悪いのよ。自分だけが特別だ!って思ってるからモラハラするのよ!」
「マキタにイキッて全然効いてないのオモロかったよなー!横ちゃん凶悪化せえへんかったらオモチャとして最高やったのにな!」
河村さんは、二人の話にドン引きしながら笑っていた。
「堀江ママが友達なったるわ!って言いだして本人に事実をガンガン言ったから悪化しちゃったのよ!」
「だってあんなアホを放置してたら河村さんがかわいそうやったやん!」
「ホント、あの時はしんどかったわ」
河村さんは横ちゃんからのモラハラの世話でうんざりしていた。
「私ばっかり責めるけど、河村さんもたいがい言うてたやんな!」
堀江さんは楽しそうにそう言った。
「そりゃ言い返すわよ、ただの厨二病やもん。でもあんなに凶悪化するなんて思わんかったわ」
私は3人の評価を聞いて、息ができないくらい笑っていた。
横ちゃんはずっと被害者物語を言っていた。僕は正しい、僕は特別だ、みんなが僕を理解してくれないから悪い、理解されたらわかると。
「横ちゃんの被害者物語の巻物、誰かちゃんと読んだの?」
「私あの長文ライン、娘に見せたら悲鳴あげて息子とお父さんにも回されたわよ!」
「みんな心配したんじゃない?」
「67歳にもなってストーカー被害?!って心配されちゃったわ」
河村さんは家族に愛されてるなぁと羨ましかった。
「横ちゃん、私らに被害者物語を送り付けるのは辞めたけど、施設長にはずっと送り付けてるんよ」
「施設長かわいそうやなー!あんな長いやつ、スパム扱いにならんのかな」
私たちは笑ったが、河村さんは真顔で
「産業医に提出するって印刷してはったよ」
と言った。
しばらくの沈黙の後、河村さんが
「ビールと焼きおにぎり4つ!」
と注文した。
「愛するパパとご飯食べなくていいの?」
ミキティは聞いたが、河村さんは
「いいのよ今日は!」
と笑った。
安心したらお腹が空いたんだな、と私は勝手に思いながら河村さんが注文してくれた焼きおにぎりを食べた。
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