【グローバルリテラシー】その大学生は、授業を抜け出して来てくれた-ロシア・ウラジオストクで
「アジアの人情シリーズ」と題して、これまで訪れたアジアの国々で出会った、忘れられない親切のエピソードを綴っています。今回の舞台は、ロシア極東の港町・ウラジオストクです。
2002年に立ち上げた翻訳会社では、多言語の翻訳チームを各国に置いていました。現地の空気を、自分の肌で知っておきたい。そういう思いで、いくつもの国を訪ね歩きました。
2017年5月。中国東北地方のお客様を訪ねた足で、ロシア極東の2つの都市に向かいました。ロシア語チームのキーマンが住んでいたからです。
ハバロフスクで仕事を済ませ、その夜のシベリア鉄道に乗り込むと、翌朝にはウラジオストクに到着です。石造りの美しい建物が並ぶ、坂の多い港町。「ロシアのサンフランシスコ」と呼ばれるのもうなずけます。
午前中に2人のチェッカーとの打ち合わせを終え、そこからはフリータイム。2日後には国際バスで国境を越え、中国の延辺(ヨンビョン)朝鮮族自治州・延吉(ヨンギル)へ向かう予定でした。日本で知り合った韓国人の友人が、仕事で滞在していたのです。
ところが、チケットを買いに行った先でトラブル発生。ガイドブックにあった延吉行きのバス乗り場が、どこにも見当たらないのです。
看板はすべてキリル文字。係の人には英語も日本語も通じない。Google Mapで行き先を指さしても、首を横に振るだけ。
もう夕方です。その日はあきらめてホテルへ戻りました。そして明日、地元の旅行会社を探して、何とか国境越えのルートを見つけるしかない。そう腹をくくりました。
翌朝、ネットで調べた小さな旅行会社を訪ねます。ロシア人の女性が、一人で切り盛りしているお店です。やはり英語は通じません。同じようにGoogle Mapで行き先を見せると、彼女は腕を組んだまま、黙り込んでしまいました。
飛行機で上海に戻るしかないのかな…。内心あきらめかけたそのとき、彼女がどこかへ電話をかけ始めます。
ソファで待つこと30分。入ってきたのは、大学生の女の子。そして何と、日本語で話しかけてくるのです。
地元の大学で日本文学を専攻しているアーニャさん。正式名はアンナ。でも、愛称で呼んで構わないとのこと。社長さんの電話を受けて、授業を中座して駆けつけてくれたのでした。
僕の意図を正確に理解した二人は、手分けして、真剣な顔であちこちに電話をかけ始めます。ひとしきりして、情報がまとまった様子。二人の説明をまとめると、こうです。
延吉行きの国際バスは運行停止になった。いまは国内バスで国境の町クラスキノまで行き、一泊して早朝の国境越えバスに乗るしかない。チケット売り場は数キロ北。予定どおり行きたいなら、今すぐ動いたほうがいい。方法が見つかって、心底ほっとしたのは言うまでもありません。
でも、彼女たちの親切はそこで終わりませんでした。
不要になったホテルの予約を、一緒にキャンセルしてくれました。チケット売り場まで付き添い、購入を手伝ってくれました。そして僕がバスに乗り込むのを、最後まで見届けてくれました。
いくら払えばいいかと尋ねると、お金は要らないと言います。そんなわけにはいきません。ありったけのルーブルをかき集めて無理矢理手渡し、何度も感謝を伝えてバスの人に。その後、無事に国境を越えて韓国人の友人にも会い、上海に戻ることができました。
ロシアの人は、見知らぬ人には笑わないと言われます。理由もないのに笑うのは愚か者。そんなことわざがあるくらいです。
でも、解決策が見つかってからの二人は、終始笑顔でした。僕が男前だから、ではありません。旅人の窮状が解決したことの喜び。国や人種に関係なく僕らが共通して持つ、その喜びを感じてくれたのだと思います。
