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【グローバルリテラシー】バスは、僕を待っていてくれた-ラオス・ファイサーイで


2002年に立ち上げた翻訳会社では、
多言語の翻訳チームを各国に置く方針をとっていました。
そのため、アジアを中心に、いくつもの国を訪ね歩きました。
言葉の数だけ、国があり、暮らしがある。
そのなかで、忘れられない体験をいくつもしました。
これは、そのうちの一つです。

「点」ではなく「線」で

2014年1月のこと。
タイ語の翻訳チームに会うため、チェンライという街へ向かいます。
タイ北部の中心都市です。

翻訳チームは現地にいても、
彼らを束ねるマネージャーたちは日本にいます。
現地と日本では、暮らしも仕事の環境もまるで違う。
なのに、つい国内の翻訳者と同じ感覚で要求してしまう。
社長である僕自身が現地を肌で理解し、
それを日本のチームによく理解してもらう。
円滑なチームワークには、それが必須だと考えたのです。

もちろん、飛行機でひとっ飛びが一番楽です。
でも、点ではなく、線で理解したい。
彼らが日々どんな距離を越えて暮らしているのか、
その道のりを、自分の足で感じてみたかった。

そんな思いもあって、当時の拠点だった上海から、
中国南西部・雲南省の景洪(ジンホン)まで飛び、
そこから国際バスでラオス北部を西へ抜け、
さらにメコン川を渡ってチェンライを目指す。
そんなルートを選びました。
いまより体力もあり、時間もありました。

国境の街で、二度のトラブル

景洪からの国際バスは大きな問題もなく進み、
夕方には無事、ラオスとタイの国境の街に着きます。
メコン川沿いのファイサーイ(Huay Xai)です。

ところが、ホテルに着くなり、お約束の最初のトラブル発生。
ガイドブックには、ホテルのすぐ近くに渡し船があり、
それでメコン川をタイ側へ渡れば、
朝のバスでチェンライに行けると書いてありました。

ところが、ホテルで聞くと、渡し船はもうないと言います。
その代わり、10kmほど下流に立派な橋ができて、
そこからバスでチェンライへ行けるとのこと。

10km下流。
簡単に言うけれど、舗装されていない道です。
車で小1時間はかかりそう。

そこでバスの発車時刻を確かめ、
余裕をもって着けるよう、早朝の迎えを頼みました。
トゥクトゥク(東南アジアでおなじみの三輪タクシー)を予約して、
その日は早々に眠ることにしました。

翌朝、約束の時間。
まだ空気のひんやりした、埃っぽい朝でした。
トゥクトゥクは、ちゃんと来ています。
ひと安心して、下流の乗り場へ。
着いてチケット売り場に立った瞬間、二度目のトラブルです。

状況はこうでした。
まずメコン川を渡るだけのバスで対岸のチェンコンへ行き、
そこでチェンライ行きのバスに乗り換える必要がある。
ところが、その乗り換え便の発車時刻が迫っていて、
10分前に出たバスで橋を越えていなければ、
午後3時の次の便まで待つしかない、と言うのです。

まだ朝8時だよ、と時計を見せながら、
女性が気の毒そうに教えてくれます。
ゆうべホテルで確かめたはずの時刻が、
またしても間違っていたのです。

さすがに、がっかりしました。
対岸のチェンコンで午後の便に乗れたとしても、
そこからチェンライまでは100km以上。
たぶん3時間はかかります。
その日の午後の予定は、まるごと組み直しです。

一本の電話

まあまあ順調だったのに、大きな誤算。
やれやれ、と肩を落としていると、
さっきの女性が、どこかへ電話をかけています。
そして左手で、ちょっと待って、の合図。

電話を終えると、彼女はこう言いました。
次のバスで橋を渡って。
向こうにチェンライ行きのバスが待っているから、それに乗って。

最初は、何を言われているのか分かりませんでした。
ここはまだラオス国内。
この人、タイのことをよく分かっていないのかも。
僕が行きたい街が、ちゃんと通じている?
変なところに連れて行かれるのは、勘弁してほしい。

半信半疑で聞き返すと、
チェンライ行きのバスがあなたを待っているから大丈夫、と言います。

まさか、バスに電話して、僕を待つように頼んでくれたの?
そう尋ねると、彼女は涼しい顔で「そうだよ」と。
そして、橋を渡るバスがすぐ出るから早く乗って、とひとこと。

違う国のバスに電話をかけて、一人の日本人乗客のことを待たせる?
そんな発想、僕にはまるでありませんでした。
本当に、驚きました。
まさに、捨てる神あれば拾う神あり、です。

覚えたてのラオス語で「コープチャイ!(ありがとう)」と言ってみました。
返ってきたのは、満面の笑みと、ウインク。
やばい、そんなんほれてまうがな...。

コイコイ・パイの国

ラオスは、中国やベトナムに近い一党体制の社会主義国。
だから当時の僕は、勝手に思い込んでいました。
杓子定規で規則を曲げない、
融通の利かない公務員たちが、流れ作業で働いている国だと。
そういう国から自分が学べることは、そう多くないだろう、と。

でも、それは間違いでした。
こういうときの対応は、むしろ日本のほうが杓子定規かもしれません。
親しみやすく、もてなしの心があり、柔らかく、親切。
それは、日本だけのものではありませんでした。

このことをタイの人たちに話すと、
ラオスは「コイコイ・パイの国」だよ、と言います。

「コイコイ」は、ラオス語で「ゆっくり、ゆっくり」。
時間がゆったり流れていて、
不測の事態が起きても、急がず、動じず、笑って受け入れる。
その心の広さが、ラオスらしさなのだと。

そう言われて、思い出しました。
途中で渡ってきた、東南アジア一の大河、メコン川。
どこまでもゆったりと流れていました。

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