【グローバルリテラシー】バスの中の小さな外交-中国・西安で
2002年、僕は翻訳会社を立ち上げました。
多言語の翻訳チームは各国に置く、という方針をとったため、
アジアを中心に各国を訪ね歩くことになりました。
その後、上海やホーチミンに拠点を設けたことで、
アジアに出かける回数はさらに増えていきました。
そのなかで、いくつか忘れられない体験をしました。
これは、そのひとつです。
2016年に西安(シーアン)を訪れたときのことです。
その数年前には、尖閣国有化をきっかけに、
中国全土で反日運動が盛り上がりました。
青島(チンダオ)のジャスコ(今のイオン)が焼き討ちに遭った事件などを、
覚えておられる方もおられるかもしれません。
西安の目的は仕事でしたが、
歴史・文化好きの僕は、数日ゆとりを持って旅程を組みました。
西安は、かつては長安(チャンアン)と呼ばれ、
中国の歴史でとても重要な位置を占めています。
秦・漢・唐など、歴代の13の王朝がここに都を置いたことから、「千年の都」と呼ばれます。
シルクロードの中国側の起点の都市。
「すべての道は長安に通ず」といういい方もされる。
ただの観光都市ではない。
その西安の西、25kmほどの場所に咸陽(シェンヤン)という都市があります。
今から2200年前、秦の始皇帝が中国をはじめて統一する前に拠点としていた古い都市。
調べると、路線バスが通っています。
行ってみることにしました。
無事にバスに乗り込み、ほっとしていたところ、トラブル発生。
スマホのナビを見ていると、想定とは逆の方向へ走っていくのです。
バスの路線番号は合っている。
ガイドブックの情報が変わっていたのです。
さて、どうしたものか。
中国語はほとんど話せません。
今のように便利な翻訳アプリもありません。
そして、少し前に反日運動が盛り上がったばかり。
当時は収まっていたとはいえ、
日本人だとばれるとまずいかな、などという考えが、正直よぎりました。
でも、バスは満員でした。
地元の人の助けを借りるしかありません。
誰か一人でも英語が通じれば、と思い、
運転士に向かって大声で話しかけてみました。
すると、後ろの方から
"Excuse me. I speak English. Can I help you?"
という女性の声が。
大学で英語を学んでいるといいます。
僕の話を聞くと、彼女は運転士と何かを交渉し始め、
反対車線を走る咸陽行きのバスの番号を調べて教えてくれました。
本当に助かりました。
それで、当時海外に持ち歩いていた「い~い塩梅あめ(松屋製菓)」を渡して言いました。
"Thank you so much. I'm going to Xianyang to meet the First Emperor of your country."
満面の笑みで答えてくれました。
国と国の関係がどうあれ、バスの中の人間関係は別の話です。
あの車内で起きたことを、外交とは呼びません。
でも、ただの人と人に戻って、
何かあたたかいものが流れたのは確かでした。
