弱さと強さは、同じ場所にあった
「原点にかえってきた気分だな」
夜、眠りについた娘を起こさないように、冷えこんだベランダに出て月を眺めながら、あつあつのおでんを食べているとき、夫が言った。
どういう意味かきいてみると、まだお金もなかった若かりし頃に、寒さに耐えながらコンビニの前でコスパの良いおでんを食べた経験を思い出すと言いたかったらしい。
私はなるほどと思って、寒空の下で一緒におでんをふーふーしながら、
「若いときは、何も持たざる者だったよね」
「初心を思い出すね」
と語り合った。
思えばこのベランダも、格安ではあるが一緒に購入したシェア別荘のテラスと呼べる場所である。娘や愛犬という家族もできた。
夫ともこんな会話をできるようになるほどの年月を、一緒に歩んできたんだなと感慨深くなる。
統合失調症を患っている私は、20代のころ自分は一生独身だろうと考えていた。実際、症状が落ち着いたあとは薬を飲みながら、独身でも、それなりに楽しく過ごせていたと思う。もし結婚することがあったとしても、子どもをもつことなんて1ミリも考えていなかった。自信もなかった。
けれど、夫に出逢って、人生は大きく変わった。
交際当時、こんなすばらしい人とこの先の人生で出逢うことは二度とないだろうと確信した。
あれから価値観や考え方がここまで大きく変化するとは、正直思ってもみなかった。
アラフォーになったいま、こんな人生も悪くないなと思う。
守りたいものが増えると、どうしたって弱くなってしまう。自由度も減る。
だけど、根幹には揺るがないものが出来上がる。
それは、そこはかとない安心感だったり、根拠のない自信だったり、がんばろうという意欲だったり、心のしなやかさだったり……。
何歳からでも人は変われるんだ。生き方も、考え方も。
20代の自分にいま伝えられることがあるとしたら、そんなことだろうか。
昔食べたおでんと、いま食べているおでん。
同じものだけど違う味に感じるのも、人生の醍醐味だ。
湯気の向こうに見える夫の顔が、心なしか出逢った頃のままのように見えた。こんな人生を選ばせてくれた夫に、心からの感謝を。
