タクシー運転手とワガママな8人の乗客者たち#1
【あらすじ】
巷で噂される《17丁目》は異形のモノたちが巣食う場所であった。誰でも憧れる異世界でもある。38歳ベテランタクシー運転手の尾田藤太は当時18歳の時に足を踏み入れた。故意ではなく仕事としてである。最初の乗客こそ、生涯の父と呼べる猪のフムクロ。さらに儀兄弟の杯を交わしたチワワに似た希少種の少年・ダンマルの協力の元、タクシーを趣味半分と始めた。そのダンマルと北海道旭川で共同経営と個人タクシーを運営するもあるのはタクシー一台。免許は藤太しか持っていないという不安定な経営だ。
春夏秋冬とタクシーを走らせる藤太に、それぞれの8人の常客がわがままに物語を強請る。
タクシー運転手 尾田 藤太
「ダンマルちゃん。今日は本当に乗客がいないわ」
――『藤太さん。君は、もう少し持ち場を考えるべきですよ。持ち場ですよ、持ち場』
車のエンジンをかけたまま俺は乗客を待っている。しかし、今日は運もなく、いつも以上に乗客が来ない。たははってもんだ。ダンマルちゃんが言うように、待ち場所を変えなきゃいけないのか、俺だって真剣に考えている。ふりをするのは得意だが、そうじゃない。本当に考えてはいる訳さ。だが動き回ったってガソリンを減る訳で、エンジンをかけている時点でガソリンも食うのだ。
窓の外に見えるのは真夏の太陽。窓から差し込む熱に、俺はタイを緩めながら舌を出していた。っへっへっへ、犬のようだ。ペットボトルの中身だって、とっくに生温い。
――『かけ持ち先も、ほとんど趣味で収穫もない上に、収入にもなっていないんですから。少しは、現実世界での収入を得て下さいよ、藤太さん』
チクチクと棘のある言葉をいうダンマルちゃんとは、異世界で出会って意気投合した結果、こうして一緒に仕事をしている。今は、24歳という立派な青年だ。
俺の仕事ってのは、【個人タクシー】だ。略して【個タク】ね。
会社の名前は《ツインタクシー》たった一台のタクシーが稼ぎ頭である。
ダンマルちゃんは免許がない上に、車酔いをする体質ってもんだから、会社からの依頼者との繋ぎ役がダンマルちゃんになったって訳だ。今ならいい酔い止めの薬があるんだし、そろそろ免許をとってもらいたいもんだよ。
さて。その稼ぎ頭も乗ってくれる客がいなけりゃあ稼ぎもない。
「そっちの事務所は冷房ガンガンな訳ーダンマルちゃーん?」
――『冷房なんか要らないよ。窓からの風で十分です』
「あ、っそぅ~~さすがは熱さに強い種族ね。北海道なんか快適でしょう?」
――『真冬なんかは沖縄に引っ越したくなるけどね。君を置いて』
「ひっどいこと言うね~~俺とあンたは、運命共同体じゃなかったのかな~~?」
ポツ。と雨粒がフロントガラスに落ちていく。
「あれま」
――『雨が降って来ましたね』
ポツポツポツ――……確かにと俺も空を見上げた。真っ黒い雲が空を覆い隠している。
――『さぁ! さぁ! 稼ぎ時ですよっ。藤太さん! 走った、走ったぁアっ!』
「ははは。はい、はぁ~い」
俺がタクシー運転手になったのは、高卒の17歳の時だ。
特に進路を考えるでもなく、将来の夢もなく。取りあえず、食っていけるだけの金があればいいやって、気楽に考えて、車を運転することが好きな縁もあって、取りあえず、タクシー運転手になったんだ。
「何なんだよ、このバケツをひっくり返したみてぇな大雨はよぉう」
俺は苦笑交じりに、皮肉を言っていると、
「? ぉ、おっと! 乗客だっ!」
腕を高く伸ばし、びしょ濡れになっているサラリーマンがいた。
ウインカーを点け、俺はサラリーマンへとドアを開けた。
「っひゃ~~助かったよ! どのタクシーも、みぃんな乗ってやがって! っは~~参ったね。こりゃあ~~」
乗って早々に。
サラリーマンが愚痴った。
彼の全身が雨に濡れていた。そりゃあそうだ。
案の定。座席も、びしゃびしゃに濡れていくのが見えた。
「タオルをお使いになりますか? お客様」
「ああ。いいのかい? じゃあ借りようかな? えぇと……尾田藤太、さん」
「はい。尾田藤太です」
次回
乗客 外資系商社マン編
https://note.com/kokohal/n/n854b651f5dd5
#創作大賞2024 #お仕事小説部門
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