3週間、ピアノを弾かなかった実習生が最後に言ったこと
実習生との事前打ち合わせで、
彼女は少し緊張した顔で言った。
「私、本当にピアノが弾けないんです」
たぶん勇気を出して言ったのだと思う。
昔の私なら、
「それなら練習しないとね」
と言っていた。
ピアノが苦手な新人には、
練習あるのみだと思っていたし、
実際練習させていた。
わりと最近まで。
でも、私は言った。
「ピアノは弾かなくていいよ」
実習生は目をまんまるにした。
私は最近思う。
保育者に必要な力は一つではない。
歌が得意な人もいる。
ダンスが得意な人もいる。
絵本が上手な人もいる。
シアター作りが得意な人もいる。
もちろんピアノも大事だ。
でもピアノが苦手だからといって、
幼稚園を諦めてしまうのはもったいない。
せっかく保育者としていいものを持っているのに、
入り口で立ち止まる子がいるという事も知っている。
私は続けた。
「その代わり、ピアノに負けないくらいのアイディアで頑張って」
すると彼女は本当に頑張った。
歌は音源を使った。
でも声は大きかった。
手作りシアターを作ってきた。
手遊びもたくさん準備していた。
分からないことはよく聞いた。
子どもたちともよく遊んだ。
3週間、
自分にできる方法で全力だった。
そして今日、
最終の責任実習の日。
反省会で
彼女が言った。
「やっぱり先生の保育を3週間見ていて思いました」
「ピアノ、弾けた方が絶対楽しいと思いました」
そして続けた。
「その場の空気を動かせるから」
私は少し驚いた。
てっきり
「保育にピアノは必要だから」
と言うのかと思った。
でも違った。
そして、
「だからこれからピアノ練習します」
と笑顔で言った。
私は嬉しかった。
なぜなら、
一度もピアノを練習しろと
言わなかったからである。
自分で必要だと思ったことは強い。
誰かに言われた努力より、
ずっと続く。
3週間前、
ピアノが弾けないことを不安そうに話していた実習生は、
最後に自分で答えを見つけて帰っていった。
それが何だか、
とても嬉しかった。
