『エイリアン』の“ビーッ…ビーッ…”の恐怖を、あなたの手に。 〜SF作品が描く携帯デバイスのレビュー#4
エイリアン – モーショントラッカーと兵士たちのウェアラブル端末
リドリー・スコット監督の『エイリアン』(1979年)およびジェームズ・キャメロン監督の続編『エイリアン2 (Aliens)』(1986年)は、SFホラーの傑作であるとともにSF兵器・装備描写の名作でもあります。特に『エイリアン2』では宇宙海兵隊の装備品として、いくつかの携帯情報デバイスが登場します。その代表例が「モーショントラッカー」と呼ばれる 携帯型動体探知機 です。

劇中、海兵隊員の一人がハンドガン程度のサイズの装置を手に持ち、暗闇の中で周囲360度の動く物体を探知します。端末の小さな丸い画面上にはレーダーのように点滅するドットが表示され、異常があれば「ビーッ…ビーッ…」という心拍音にも似た不気味なアラーム音が鳴る仕組みです。狭い廊下に潜むエイリアンが徐々に距離を詰めてくる緊迫感を、このモーショントラッカーの画面と音が観客に伝える演出は非常に印象的でした。デザインとしては手持ち型の箱にアンテナらしきパーツが付いており、UIはシンプルなドット表示と音のみというミニマルなインターフェースです。しかしその機能性は重要で、劇中ではトラッカーなしでは敵の接近に気付けず全滅していたかもしれないほど、サバイバルの鍵となりました。
現実世界でも、あのモーショントラッカーに近い技術が登場しつつあります。米軍は近年、壁越しに人間の動きを探知できる携帯式レーダーの開発を進めています。実際、2019年にはLumineye社というスタートアップが手の平大のデバイス「Lux」を発表し、壁の向こうの呼吸や動きを検知できると報じられました。その装置は3Dプリンタ製ケースに収まった約900gの軽量センサーで、ミリ波レーダー技術を用いて壁や煙越しに人を感知します。驚くべきことに、そのLuxの表示画面や目的は『エイリアン2』のモーショントラッカーと酷似しており、米メディアは「まるであの映画の動体センサーが現実に」と伝えました。実際Luxはエイリアンではなく人命救助や軍事作戦での使用を想定していますが、「壁の向こうに潜む存在を検知する」というコンセプトは共通しています。まさにSFガジェットが現実の技術者にヒントを与えた例と言えるでしょう。
『エイリアン2』では他にも、海兵隊員全員がヘルメットカメラとバイタルセンサーを装着し、指揮官が後方のモニターで各員の映像と心拍データを確認する描写がありました。これは現代で言うところのボディカメラ+生体モニタリングシステムで、実際に軍や消防で試験的に導入されています。隊員のヘルスデータをリアルタイムで集める技術はウェアラブルデバイスの進歩で現実化しつつあり、心拍や位置情報を遠隔指揮統制に組み込む研究が行われています。エイリアン2のように一般兵が当たり前に装備する未来はもう少し先かもしれませんが、戦場のIoT化という方向性は着実に進んでいます。
また、『エイリアン』(1979年)一作目に目を向けると、ノストロモ号のクルーは腕時計型のデバイスで時間や簡易通信を行っている描写があり、これも今でいうスマートウォッチの先駆けと捉えられます。劇中、船内AI「マザー」による自己破壊タイマーが起動すると、乗組員の手首のデジタル腕時計が警告を発する場面があります。これは現在のデジタル腕時計やスマートウォッチでタイマー連動通知が来るのと類似しています。着用型情報端末という観点では、1970年代の作品ながら先見性が感じられます。
『エイリアン』シリーズのデバイスは、派手さこそありませんが実用本位で堅実なデザインが多く、現実の産業デザインにも通じるものがあります。宇宙貨物船のUIは無骨なキーボードとCRT画面でしたし、海兵隊の装備は使い込まれた工業製品の質感がありました。この生活感のある未来ガジェット像は、多くの後続SF作品(例えば『ファイヤーフライ』やゲーム『Dead Space』など)の参考となりました。また現在でも軍や警察の装備品デザインにエイリアン的リアリズムが垣間見えることがあります。
総じて、エイリアンシリーズの携帯デバイスはミリタリー/産業用途の先端機器として現実とSFの橋渡しをした存在です。モーショントラッカーのように当時は空想だったガジェットが今や実現目前となり、SFのビジョンが技術開発の目標になる好例と言えるでしょう。
