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5つの制約にもとづいたアートや塗り絵を制作。世の中の“おもしろい”の総量をあげたい

気になるnoteクリエイターに、國學院大學メディアnote編集部が「お話を聞いてみた企画」。今回は技術系会社員であり、またアーティストとして活動を続けるKENTA AOKIさんにお話を伺います。
世界各国のアーティストとのコラボ、上海での個展、アメリカのギャラリーコンペの賞を年間6度受賞などの経歴を持つ一方で、インドネシアやタイ、日本の子どもたちに塗り絵授業を行ったり、塗り絵本の出版といった活動もしています。2020年までアートにはまったく縁がなかったというAOKIさんはなぜアーティストとなったのでしょうか。

——アート活動を始めたきっかけはなんですか?
 
コロナ禍ですね。僕は化学メーカーの社員で、2019年から2023年まで技術営業職として上海に駐在していました。妻を帯同していましたが、コロナが未知のウイルスだった2020年はじめに、会社要請で妻だけ一時帰国。一人在宅勤務で外出もままならず、仕事以外にやることが何もないような状態になってしまいました。
 
もともと趣味もないので、動画を見たり本を読んだりしてみましたがおもしろくなく、時間を持て余していました。あるとき動画を見ていたら「ピカソの絵はこんなに高い価格がついている」という内容が流れてきました。ふと、「なぜピカソの絵は高いんだろう」と疑問に思って調べているうちに、アートに興味が湧いてきたんです。さらに調べていくと「アートって理系っぽい」と思ったんです。


——アートが理系? もう少し詳しくお願いします。
 
たとえば、ピカソはキュビズムの代表的な画家ですよね。キュビズムが出てくる前のアートというと、西洋美術のような物凄くリアルに描く“ 肖像画 ”が一般的でした。肖像画こそリアルを描いていると。対して、キュビズムとは、物事を上から見た場合、下から見た場合、横から、斜めから……と多面的な視点を同じ平面に表現する技法です。

キュビズムは目に見えるものをキューブに切り刻んでいって、このポジションは前の視点、このポジションは横の視点というふうに多面的な視点を二次元に落とし込んでいるわけです。つまりピカソは、肖像画は本当の意味でリアルを表現できているわけではなく、キュビズムを使うことで“ 本当の意味で ”物事のリアルを描くことができるのでは、という問題提起を行ったんです。そして作品を生み出すことで検証を行った。

それって、1つの事象について現状を把握し、問題点を見出して仮説を立て、解決の手段を考えて実証していくという理系研究者が書く「論文の構造」と同じだと気がついたんです。だったらその構造で考えて描いた絵は、アートになるんじゃないか? と考えたんです。

——その構造に気がついて、まず描いてみようと。
 
はい。なにしろ時間はたくさんありましたから。
まず、YouTubeのデッサンの描き方動画を参考にして、繰り返し描き続けました。やってみたらおもしろくて、仕事が終わると、食事を食べるのを忘れるほど集中して、夜中の3時、4時ぐらいまで描き続けるという生活を2〜3か月続けていました。
 
基本的に飽き性なんですが、絵は飽きなかったですね。なにしろゼロベースで始めたので、やればやるほど少しずつ進歩するのが楽しくて。


AOKIさんのデッサン。描き始めの頃の作品。

——noteやInstagramで発表されている絵は素晴らしいクオリティで、コロナ禍から描き始めたとは思えません。以前から絵を描いていたんでしょうか?
 
いやいや、絵を描いたのはこのときが初めてなんです。最初の頃の絵は下手くそでとても人にお見せできません。noteやInstagramに掲載しているものは良いものを選んでいますよ!

——最初に描いていたのはデッサン画だったのですね。今描かれているような、幾何学模様を組み合わせたような技法に至ったのはどうしてですか?
 
それは「5つの制約」に基づいています。「5つの制約」とは、ある講演会で聞いた内容なんですが、「おもしろいものを作りたかったら、制約を5つ付けなさい」と。
 
たとえば企業が大学生を採用するときに大勢を前にして「この中に英語とスペイン語、フランス語が話せて、海外留学の経験があり、かつインターンもしたことがある人はいますか」と言ったとします。この場合、英語、スペイン語、フランス語、海外留学、インターンというのが5つの制約です。これを全部経験している大学生なんていませんよね。ところが、「私は当てはまります」という人が一人いたら、その瞬間その人は場の中で大注目を浴びる人、すごい特徴を持った人になると思います。

この考え方を絵の描き方に応用したんです。自分は必ず「5つの制約」の中で絵を描こうと思ったんです。そうすれば、他にはないものが描けるはずじゃないですか。それは大きな個性になるはずですし、何よりおもしろいはずだと。
 
制約があると発想が難しいと思われるかもしれませんが、制約条件を付けてその中でいかにおもしろくするかを考えるほうが、まるで制約なしで自由に発想するより、断然おもしろいものが生まれるんですね。


——その考えに基づくと、こういう幾何学的な絵になるんですか?
 
なったんです(笑)。絵に照らし合わせて説明してみると、あの絵は「アナログ」「デジタル」「キュビズム」「フォーカス」「四色定理」という、5つの制約を始めに与え、その制約の中で描かれた絵なんです。幾何学的に見えたのは、「キュビズム」の考え方で絵の輪郭を描いているからだと思います。1つめの制約です。そのうえで、他の制約を考えてみると、この絵を描くときは、まずスケッチブックに手書きで絵を描き、それをデジタルツールで読み込んできれいに仕上げていくんです。ここに2つの制約「アナログ」と「デジタル」があります。何となく分かってきましたか?

——うーん、難しいですね。
 
そこまでいったら、この模様です。三角や四角で囲まれた部分には点々だったり、ストライプだったり、渦のようなものだったりが描きこまれていますよね。これは、その部分を顕微鏡で拡大してみたり、ひいて見てみたりすると見える模様だったりするわけです。それをパターンとして絵に描いているだけなんです。


「5つの制約」のもと描く、塗り絵作品。

——拡大の視点がそこに入っている。「フォーカス」の制約っていうことですね。
 
そういうことです。あとは色を塗るときは、「四色定理」に従って塗ってみている、ということです。あの、数学の定理として知られている、「四色のみで、隣り合う面を違う色で塗り分けられる」という考え方ですね。でもこうやって「5つの制約」で描くこと自体も、本当にほかにない個性のあるものになるのか?と、常に実験と検証を繰り返しながら描いているって感じです。



——現在noteでの肩書は「会社員✕塗り絵作家」(そのあとにビール愛好家もついていますが)ですよね。そのほかにもいろいろやられていて、現在に至る、だと思いますが、これまでの流れを教えていただけますか?
 
絵を描き始めた頃はInstagramにアップして、僕の絵とコラボしてくれるアーティストを探し、DMを送ってスペイン、フランス、オーストラリアやキルギスなどのアーティストと交流しました。
 
そして、Instagramを通じて、タイで小学校教師をしている“日本語教師もりす”さんと知り合って、僕の絵を使って子どもたちに塗り絵をしてもらう授業をしていただきました。これは、コロナ禍で世界中の子どもたちの学びの機会が減っていたので、子どもたちに対してなにかおもしろいことができないだろうかと思って始めました。


タイの小学校教師“日本語教師もりす”さんと子どもたち。

ほかにも、クラファン(クラウドファンディング)をしている人とのコラボがあります。コロナがピークだった頃、子どもたちのために何かをしようというクラファンの数がものすごく増えたんです。コロナ禍でクラファンを立ち上げた方々の多くは、今まで得ていた寄付や資金がコロナの感染拡大で途絶えたり減少したりして苦労されていることが多い。ということは、支援する側からすると、コロナ前に比べると、同じ金額で役に立つことがものすごく増えた。僕は会社員で毎月給料をいただいているので原資があります。自分は幸い支援をすることができるから、どこか寄付できるところはないかと探し、いくつかの活動に支援をしました。

南アフリカで日本人女性唯一の政府公認サファリガイドをしている太田ゆかさんが立ち上げたクラウドファンディング

インドネシア在住の中学生Lanaさんが立ち上げた、インドネシアで子どもたちがスケートボードで遊べるようにスケートパークを作るためのクラウドファンディング

東南アジアで活躍中の日本人サッカー選手・西原拓夢がケガしたときに立ち上げた、ケガの治療に関するクラウドファンディング

ただ、僕としてももっとおもしろいことができたらなと思っていたので、支援をするときは、僕のアート活動とのコラボを提案しています。これが僕のメリットにもなるんです。
 
また、上海駐在中に2回個展を開催しました。そのほか、上海と新宿の伊勢丹や、HAMACHO HOTEL、横浜のクラフトビールレストランなどで、塗り絵のワークショップを行っています。


2024年9月、伊勢丹新宿店で開催された「大宴会的美術展」。青木さんは巨大キャンバス塗り絵を展示し、ご来場者にアクリルマーカーで塗り絵をしてもらうというスタイルで作品を完成させた。


HAMACHO HOTELで開催されたワークショップ。子どもたちが一心に色を塗る。
この作品は、現在HAMACHO HOTELに飾られている。

塗り絵本は世界の子どもたちの楽しみや教育に使ってもらえたらという思いで自費制作しました。経緯はこんな感じですかね。


青木さんが中国で自費制作した塗り絵本『Cheer For You』。動物や上海にあるフランス租界の街並みなど、塗り絵作品が約20点収録されている。

——上記のnoteを拝見すると、クラウドファンディングで支援して、さらにアートタオルをプレゼントするなど、Give&TakeというよりGive&Giveのようにも思えます。
 
そうですね。ただ、僕にとってのメリットは、返礼品や金銭や、アーティストとして有名になるとか、そういうことではないのかもしれません。じつは最近、自分自身の本当にやりたいことがようやく生まれてきたような気がしていて、そのことと関係しているかもしれません。
 
——本当にやりたいこと?
 
はい。それは「5つの制約」をもとに発想し、おもしろいモノやコトを作り出す思考法を広めたいということです。

この思考法ってビジネスでも、それ以外のどんな場面でも活用できることではないかと思うんですね。仕事や人生に行き詰まったときに、この考え方を理解し、発想を変えてみたり、多面的にものを見たりするようになると、おもしろい発想が生まれると思うんです。行き詰まったりしたときの1つのツールみたいになれるんじゃないかなと。それでみんながおもしろい発想にたどり着けたら、世の中のおもしろいものの総量が上がると思うんです。
 
僕のアート活動は、それを伝える手段の1つかなと最近思っています。たとえば個展やワークショップの際に僕に興味を持って話しかけてくれた方に、この「5つの制約」の話をすることも、すごく大切な活動です。そうしたら、いろいろな企業や大学から「今の話を講演してください」という依頼をいただいたりするようになりました。

もちろん、社内でも、後輩たちに向けて同じように話ができたらなと思っています。会社で作るものって無意味なものはなくて、社会の役に立つものを作るわけですが、より一層おもしろいものを作るために、自分の考えが使われていったら一番いいなと思いますね。


——ご自分の知見をシェアしたいという思いをお持ちなのですね。
 
そうですね。僕は会社では幹部社員になったので、自分に役立った知識や考え方はどんどん若手に伝えていこうと思っています。たとえば、ビジネスモデルの話。
 
ビジネスモデルを考えることは会社の中で必要なことですが、じつは、社内で学ぶ機会がなかなかないものでもあるんです。とくに技術系社員だと。それでnoteで【noteで学ぶビジネスモデル】というマガジンを始めたんです。若手にもnoteの話はしているので、見たい若手が見てくれるように、自分が得た知見をマガジンに記しているという感じですね。もちろん、社外の方にも見ていただきたいです。
 
——その一方で、これからもアートの活動は軸の1つ?
 
はい。アートによって自分の考え方や知見を伝えていって、それがおもしろいものを生み出すことにつながったら、その周囲にも楽しいものが生まれるでしょうから、おもしろいものがどんどん連鎖していくでしょう。そうすれば、そこから活気が生まれて世の中全体がおもしろいものでいっぱいになって、もっとワクワクする世界ができあがっていくんじゃないかと思うんですよ。そのために力を尽くしたいですね。

——ありがとうございました。伺ったお話は、AOKIさんのアートを直に見ながらだともっと理解できる気がします。気になった方がいたら、イベントをチェックしてください。イベント情報は……。
 
はい、noteに記していますので、ぜひいらしてください。いろんな方にお会いしてお話ししたいです。


KENTA AOKI
技術系会社員のかたわら、アート活動や塗り絵本を世界中の子どもに届ける活動、塗り絵ワークショップなどを行っている。2020年から絵を描き始め、インドネシア、タイ、日本の幼稚園や学校での塗り絵授業、上海伊勢丹、伊勢丹新宿店やカフェ、レストランでの塗り絵ワークショップを開催。上海日本総領事館には絵の常設も。また、アメリカのギャラリーコンペでは年間6件の受賞を達成している。ビール好き。

note
KENTA AOKI@会社員×塗り絵本作家×ビール愛好家
https://note.com/qingmu_art
Instagram
https://www.instagram.com/qingmu_paint/?locale=ja_JP


 
取材・文:有川美紀子 撮影:押尾健太郎 編集:篠宮奈々子(DECO) 企画制作:國學院大學