【用地実務】地権者テレアポの心構え
現場の課題:最初の電話を阻む「行政の壁」と留守電の壁
用地買収業務の第一歩は、計画路線内の地権者への戸別訪問や、説明会への呼び込みのための「最初の電話(初期アプローチ)」です。しかし現在、高齢の地権者は特殊詐欺や悪質な強盗の下見電話に対して極めて強い警戒心を持っています。現場の地権者からも「特に最近は不審な電話が多すぎる」という声が頻繁に聞かれ、その対策として、常に留守番電話に設定している家庭が非常に多くなっています。
そこへ行政の担当者が、生真面目に「〇〇市役所 建設部 用地課 の〇〇」と一気に名乗ると、その長々とした堅苦しい響きだけで高齢者はフリーズし、「怪しい電話だ」「騙される」と防衛本能が働き、留守電の時点で警戒されて繋がらないというケースが後を絶ちません。
コミュニケーションの解決策:威圧感をゼロにする「細切れトーク」
音声だけの電話において、相手に主導権を渡さず、かつ安心感を与えるための効果的なテクニックが、情報をあえて細切れにして相手の脳内処理を先導する「細切れトーク」です。
行政の硬い組織名を一息で言わず、相手の「はい」という相槌を細かく挟みながらステップアップしていくことで、以下の効果が生まれます。
「お上の威圧感」の緩和
役所の長い肩書きが与える心理的圧迫感を小分けにすることで、聞き手の心理的ハードルを下げます。
詐欺グループとの差別化
まくし立てるような勧誘電話とは一線を画す、丁寧で落ち着いた公務員らしい信頼感を演出できます。
用地交渉の電話におけるトーク例(悪い例・良い例)
・悪い例(官僚的で一気にまくし立てる)
「お忙しいところ恐れ入ります。私、〇〇市役所都市整備部道路建設課用地未登記解消推進係の佐藤と申しますが、本日は〇〇地区の主要地方道拡幅工事に伴う、お持ちの土地の用地買収の件でお電話いたしました」
地権者の受け止め:
市役所のなんとか課?土地の買収?あ、これ噂の地面師か詐欺の電話だわ!(ここで切られる、または留守電を消去される)
良い例(信頼関係を構築する細切れトーク)
「お忙しいところ恐れ入ります。……私、〇〇市役所の(1.5秒空ける・相手の『はい』を待つ)……道路をつくる課の(1.5秒空ける・分かりやすい言葉に置き換え)……佐藤と申します。……本日は、〇〇地区の皆様にお願いをしております、新しい道路の件で(1.5秒空ける)お電話いたしました」
地権者の受け止め:
市役所の(はい)道路の課の(はい)佐藤さんね(はい)。あ、あの道路の計画の話か、と頭の中で情報を整理しながら安心して聞く体制が整います。
交渉担当者の技術:少し低い声と「間」の統制、留守電の残し方
細切れトークの成否は「間(ま)」のコントロールにあります。一区切りごとに約1.5秒の意図的なポーズを入れ、相手が頷いた気配を察知してから次へ進みます。また、高齢地権者は高音域の音声が聞き取りにくくなる特性(加齢性難聴)があるため、不自然に高いよそ行きの声で話すよりも、普段より少し低い、お腹に力を入れた落ち着いた声で、一音一音をハキハキと発音する方が、圧倒的な説得力と安心感を生み出します。
さらに、留守番電話にメッセージを残す際にも技術が必要です。留守電の音量設定やスピーカーの性能は家によって大きく異なるため、受話器越しに聞き取りにくい状態になっていることが多々あります。そのため、留守電を入れる際は、通常話すときよりもさらに「大きめの声」で、一言ずつ区切って吹き込むことを徹底してください。後から再生されたときでも「市役所の誰から、何の件でかかってきたか」がはっきりと聞き取れれば、警戒心が解け、折り返しの連絡や次回の訪問受け入れへと繋がりやすくなります。一方で留守番は時間制限があるので、必要最低限の言葉を適切な速度で読み上げられるよう事前に文字起こしを行ってから声に出して練習することをおすすめします。
