見出し画像

【用地実務】契約後・支払い前に地権者が死亡した場合の対応

背景と法的リスクの構造

用地買収において、地権者と土地売買契約や物件移転補償契約を締結してから、実際に行政から補償金が振り込まれるまでの間に、地権者が急逝されるケースは珍しくありません。契約が成立した時点で、土地の所有権移転の効力は生じますが、金銭を受け取る権利(補償金請求権)は地権者の死亡と同時に「相続財産」となります。つまり、土地の売買契約は完了しているが、金銭に関する契約が履行されていない状態になります。

この場合、正当な相続人が誰であるかが確定し、遺産分割協議等によって「誰がどの割合で受け取るか」、あるいは「代表して誰が受け取るか」が法的に決まらない限り、行政は特定の親族にお金を支払うことができません。もし、相続人が未確定の段階で、良かれと思って配偶者や同居の子供の口座に振り込んでしまうと、後から別の相続人(前妻の子や疎遠な親族など)が現れた際に、行政は二重払いの法的リスクを負うことになります。おそらく前者の支払いは無効になります。

​対応策に関する具体例と生存確認のテクニック

具体例として、契約から支払いまで1ヶ月以上のブランクがある案件を想定します。担当者は、振込手続きを本庁や会計担課に回す直前(およそ支払いの1週間前)に、地権者への連絡を行います。この際、ストレートに生存を確かめるような聞き方は極めて不適切です。

現場では、事務手続きの確認を装うのが鉄則です。「補償金のご振込手続きを最終段階に進めております。念のため、以前お伺いしていたお振込先の口座情報に変更や間違いがないか、最終確認をさせていただきたくお電話いたしました」と伝えます。本人から「変更ないよ」と返答がある、あるいは家族から「本人は元気です」と確認が取れれば、地権者を不快にさせることなく確実な生存確認が行えます。

​支払い不能時の対応(弁済供託)

もし、この確認の段階ですでに亡くなられていることが発覚し、相続人同士の話し合いがまとまらない、あるいは一部の相続人が行方不明で支払いができない場合は、裁判所ではなく「法務局(供託所)」に対して「弁済供託」を行います。

これは民法上の「債権者不確(誰が正当な債権者か分からない状態)」を原因とする手続きです。法務局に補償金を供託金として預けることで、行政側は債務不履行(遅延利息の発生など)の責任を完全に免れることができます。口座の凍結や親族間の遺産紛争に市役所が巻き込まれないためにも、入金前の丁寧な確認と、いざという時の供託実務の知識は必須です。

いいなと思ったら応援しよう!