タトゥー 5曲目 Wind and light
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真夏日になると車内でセックス・ピストルズを聴きたくなるのはなんでなんだろう。特に私はProblems(怒りの日)が好きだ。
あの何か始まろうと、やらかそうとしている雰囲気が出ているイントロからの勢いのあるジョニーロットンの歌はまさにパンクだ。
それにしても、まだ6月だというのに梅雨どころか石川県にしては珍しい、真夏に近い晴天が続いている。
あの曲が出来てから数週間。一気に作曲が捗った。
16ビートで構成したハードロックのような、メタルのような曲のWEB。
情報が溢れに溢れた現代社会に対してのアンチテーゼを皮肉たっぷり歌詞に書いた。
それとは対照的なWind and light。私たちのバンドサウンドでは珍しく、クリーンギターが主となり、私のギターがほぼ出番のない曲だ。
日陰にいる涼しげな夏をイメージした曲でまだ歌詞がついていなかった。
この曲はヴォーカルであるアヤコに任せてみたかったのだ。
いつもアヤコというフィルターを通して自分を表現してきた私。
きっとそれは純粋な意味で曲そのもの、歌詞そのものが届いているか疑問が残るところだった。そして、何より私のワンマンバンドみたいな形になるのが嫌だった。だからアヤコにお願いして作詞してもらうことにしたのだ。
この2曲に関しては、なぜか曲中にユキオがいなかった。
その原因を私は追求しようともしなかった。
ピストルズを一通り聴き終えたところで、WEBのヴォーカルなしのテイクを車内で流す。私は夜作曲することが多いのだが、夜通しギターを弾いて出来た曲をその時聴くと、本当に名曲ができた!!と夜中にも関わらず叫び出したくなるほど最高に気分が良くなる。
しかし、その気分は私の睡眠と共に去ってしまう。どういうわけか次の日同じ曲を聴いても、駄曲だ。。。と感じてしまうのである。
昨夜大事に手の中に握りしめていた大事なものを寝ている間に無くしてしまったような錯覚に囚われる。改めて自分が凡人なことを朝日が連れてきてしまう。この感覚だけは不快ですごく落ち込む。
ユキオにこの気持ちを話せたらどんなに楽だろうか。もしくは、ユキオに話すとどういう答えが返ってくるのだろうか。
私は自分でも攻撃的な奴だと思う。それは人より傷つく痛みに弱いからだ。だからユキオに対しても「好きだ。」とか「愛している。」と言った甘い言葉を使ったりすることができない。それでも何とか彼に甘えてみようと思ったことも何度もあるが、拒絶されるのが怖くて甘えきれずにいる。
どうして、うまく立ち回れないんだろう。
その言葉を吐き出したようなため息と共にタバコの煙が空に消えていった。
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「弘法筆を選ばず。」なんて言葉が脳裏をよぎったが、今試奏しているエレキギターの前ではその言葉の意味さえ無意味さを感じるほど、そのギターは良い音を出していた。
「今なら分割払いでも金利は・・・」と楽器屋の店員がしきりに説明しているが、私の耳に入ってくるのはこのギターの音色の美しさだけだ。
まさにこのギターは私が「出したい音」が出る音のギターだった。ギターの形も変形ギターと呼ばれるフライングVの更に変形したランディローズVだった。そして白のボディカラーに黒のピックガードが付いている。
私たちのバンドはメタルをやっているわけじゃないけど、このギターはすごく私好みだったのだ。いわゆる一目惚れというやつだ。左右非対称なのが、またいい。
もちろん、OLの売れないバンドマンの私がキャッシュで買えるわけもなく、分割払いの契約書にあっという間にサインをしその日のうちにそのギターを自宅へ持って帰った。
翌週やってきたユキオにその話を一通りしたところで帰ってきた言葉は「呆れた。」の一言だけだった。それはそうだ。どう考えても普通の思考ではない。私が彼でもそう言うと思う。
だけど、分かっていたけど、現実のユキオに改めてそう言われると私は落ち込んだ。ほんとうに私はメンヘラ女だ。つくづく自分でも自分を辞めたくなる。
「そう言ってもきっとユキオは分かってくれないんだろうな。」その言葉を心で噛み殺し、ユキオに抱きつく。私より腕も太いし胸板も厚い。本当に男らしい体つきだ。この体に抱きしめられると、いっそ私も男に生まれてきたかったと思うくらい強い憧れが心の隅によぎる。
女だからとバンドをやっていると何かにつけて甘くみられたりすることが多々ある。そんな時、私は意外にも何も言えず何もできずにいることが多い。男ならこんなことに巻き込まれずに済むのにという経験もいくつかあった。
その度にユキオに守られてきたし、そういうトラブルに巻き込まれない為にユキオにマネージャーみたいなことをしてもらっていると意味もある。
だけど、何より側にユキオがいて欲しかった。
客席からではなく、ステージ脇から私たちのバンドの裏側までユキオには見ていてほしかった。
そんな不器用な形でしか私は愛情表現ができなかった。
