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タトゥー 2曲目 DEEP LOVE



 「ユキオ、これ似合ってる?」
ヒカルが手にしていたのは赤とグレーの手書きで書かれたようなチェック柄の長袖のTシャツだった。お世辞にもオシャレとは言い難い服だ。
 僕とヒカルは久しぶりの休日にヴィヴィアンウエストウッドに来ていた。セックスピストルズの衣装を手がけたこともあるパンクファッションというファッションジャンルを作ったのがピストルズとここ、ヴィヴィアンウエストウッドらしい。
 僕は自慢じゃないが、ファッションに関しては無知だ。というかほとんど服を持っていない。無頓着すぎて、しょっちゅうヒカルに洋服を選んでもらっている。
 1回目のデートの時に流れに任せてキスをした。これは責任を取らなければと変な責任感からか思い切って告白したのがヒカルとの付き合いの始まりだ。
 そんなヒカルは特徴的な顔立ちをしている。
可愛いという言葉が似合わないくらいクールな感じだ。目は化粧をしなくても大きく見えてまつ毛も長い。こういうのをクールビューティーと言うのだろう。性格も控えめな僕に対してたまにどっちが男か分からないくらい男らしいところがある。
彼女に比べれば、僕なんて至って凡人だ。やはりお互いないものをねだるから強く惹かれ合うのだろうか。

 「次のライブでこの服を衣装にしたい」と大きな瞳でヒカルが言う。
「それ、いくらや?」僕が何かを諦めたように言う。

「28,600円!」

2,800円の間違いじゃないのかと疑ってしまう僕。
やれやれ、こないだのライブも客席はガラガラだったのにそんなに洋服にお金をかける意味があるのか。と口から飛び出しそうなのを堪え、「ヒカルが買いたいなら買えばいいよ。ヒカルが稼いだお金で買うんだからさ。」とにっこり笑って僕は言った。

 「故郷とは遠くにありて思ふもの」室生犀星の有名な言葉だ。
僕にもそう呼べる故郷がある。小学生3年生まで僕は金沢市で生まれ借家に住んでいた。親父が勤めている建設会社で白山市に家を建てたのをきっかけに僕は転校したのだ。
転校が決まった時はまわりの友達と一味違う体験が味わえると嬉しく思ったが、転校が1日ずつ近づく度に僕の気持ちはだんだん沈んでいった。
 そして、転校初日に帰宅して僕が言った一言目は「前のお家に帰りたい!」だった。
 そんなことを思いながら金沢市から車で30分で行ける山に僕は車を走らせていた。いわゆる登山が趣味といいたいところだが、僕の場合は少し変わっている。山の景色を愉しむでもなく、無心に登り、下山する際は走って下る。
トレイルランと言えばいいのか、登山と言えばいいのか、本当に中途半端な趣味だ。
 カーステのCDから流れているのはヒカルのバンド、I'LLの曲だ。

「今日もまたメディアから余計な情報(もの)溢れて」
「情報操作巧みにほら、騙されてる」

なんでも、束縛心の強い女、いわゆるメンヘラ女子と情報化社会を皮肉に書いた曲らしい。タイトルはDEEP LOVEなるほど。皮肉が効いている。
それをアヤコが歌うもんだから説得力も相当なものだろうな。僕は音楽も全然詳しくないのだけれど、

「誰も見ないでずっと私だけ見つめていてほしいのよ」
「だから他の子が写るのならその瞳潰してあげるわ」

 言わずもがな強烈な歌詞だ。そういえば、ヒカル自身もたまにそういうメンヘラと言うか、束縛が強い時がある。言葉では言わないが、他のバンドメンバーと話をして盛り上がっていたりすると明らかにヒカルは面白くなさそうな雰囲気を出すのだ。
 どんどん景色は緑が広がる風景に変わってゆく。
それと対比するようにヒカルのギターの音が鋭さを増していく。


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