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短編小説|本を読むほどワルい奴

 本を読むなら窓を割るほうがマシだと学年主任に叱られた。
 二十年前、親父の転勤で僕が転校したのは、そんな高校である。悪そうな奴らは、みんな大人たちに隠れて読書会を開いていた。
「トーキョー、おまえ持ってるらしいじゃねえか」
 不良のリーダーである西園寺くんは、東京から越してきた僕をトーキョーと呼んだ。僕は「持って」いた。本のことだ。僕の部屋の三面の壁を覆う本棚を見て、西園寺くんは「おまえ、相当ワルいな」と生唾を飲んだ。

「トーキョーの本はクセになる」と高校ですぐに評判が立った。
 とくに海外のミステリー小説は「輸入モノ」と呼ばれ、またたくまに不良たちの間で広まった。本の貸し出しで稼いだ小遣いで、僕はまた本を買う。
 西園寺くんは青ざめた顔をして、高校の屋上で僕に言った。
「やめよう、やめようと思っても、やめられねえ。昨日の夜なんか、あと一頁、あと一頁と思ってるうちに、朝日が昇ってきやがった」

 西園寺くんが退学になったのは、高校二年の一月だ。
 僕の貸した哲学書を西園寺くんが読んでいたとき、学年主任に見つかったらしい。運が悪い。ミステリー小説なら退学とまではいかなかっただろう。
「おれが自分で買った」と西園寺くんは最後まで大人たちに言い張った。
「僕が貸した」と生徒指導室に乗り込んだが、西園寺くんは僕を殴った。
「東京から来た良い子ちゃんが、でしゃばるなよ」

 二十年が経ち、窓を割るより本を読むほうが褒められるこの東京で、僕は白熊文芸堂という書店を営んでいる。
 一月中旬の日曜の夜、両手いっぱいに本を積んだ男がレジに来た。僕が会計を済ませたあと、男はバッグから古びた一冊の本を取り出した。
「借りっぱなしで、すまん」と差し出されたのは哲学書だった。
 借りがあるのは、こっちだよ。



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小牧幸助|小説・エッセイ 牛乳を買って金曜よるに一杯やります。