小説|歳を重ね、手を重ね
八十歳になって彼は彼女と手をつなぐようになりました。彼女が脚を悪くしたからです。早朝の公園をふたりで歩くようになりました。もうこれより彼女の脚が悪くならないよう運動をするためです。
これまで人前で彼から手をつなぐことなどありませんでした。玄関で先に靴を履いた彼が手を差し伸べてくれるのが、彼女には嬉しく思われました。彼は彼女の歩幅に合わせて歩いてくれます。
迷惑をかけて申し訳ないと思いながらも彼女は脚が悪くなってよかったとさえ考えました。公園で寄り添うように並ぶ老木は一月の冷たい風を受けて葉を散らします。彼女はついに歩けなくなりました。
横になった彼女に彼は嗄れ声をかけます。もう彼女の耳には届きません。目を開く力もなくなりました。彼女のまぶたの裏にはふたりで歩いた公園。冷たくなっていく彼女の手に、彼は温かい手を重ねました。

ショートショート No.332
昨日の小説
#ショートストーリー #短編小説 #物語 #読書
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