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短編小説|思い出を美化するアルバイト

 思い出す過去は変えられる。それが当社の理念だと社員の方は誇らしそうです。怪しい。ひとりで私を育ててくれた母の誕生祝いを買うために始めたバイトでしたが、失敗だったかもしれません。スマホを使った軽作業だと社員は続けます。
「まずお持ちのスマートフォンにこちらのアプリをインストールしてください。ええ、その Memoryshop というアプリです。一定時間ごとに画像が表示されます。それを良い感じに編集してください。今風に言い直せば、盛ってください」

 指示を受けてから数時間、私は長机と椅子が並ぶ会議室然とした場所で、もくもくと画像を編集しました。同室には数名、アルバイトの方がいましたが、ひとことも会話はありません。ひたすら表示される画像を「盛って」いました。
 公園で遊ぶ子ども、高校の教室、つまらなそうな会議、挙式の一幕など、脈絡のない画像を私は淡々と盛りました。遊具を大きくしてみたり、放課後の夕日の彩度を上げてみたり、上司を微笑ませてみたり、花嫁をちょっぴり可愛くしてみたり。

 社員の言葉を借りれば、それらは「人の思い出をダウンロードして画像ファイルにしたもの」だそうです。「思い出は美化されると言いますが、否。我々が美化しているのです。つまらない現実を美しく!」と胸を張っていました。怪しすぎる。
 しかし定時前、表示された画像に手を止めます。見覚えのある人が写っていました。子どもの頃の母です。誕生日の飾りつけを背景に、幼い母は缶詰の果物が載った食パンにフォークを立てています。祖父母の家も貧しかったと聞いていました。

 定時を迎え、私は日当を電子マネーで即日受け取ります。帰り道、今日の謎の仕事を振り返ります。結局、母の思い出に私は手をつけませんでした。食パンをケーキに差し替えることもできました。けれども、なぜかそうしなかったのです。
 近所の商店街でショートケーキと花束を買いました。このために変なアルバイトをしていたのです。小さいけれど、母のお誕生日ケーキです。喜ぶ顔が目に浮かびました。ああ、きっと私は過去ではなく、今日を変えたかったのでしょう。







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小牧幸助|小説・エッセイ 牛乳を買って金曜よるに一杯やります。

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